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自身のビジネス体験が生んだ新事業で
学生のやる気と地域企業の挑戦をつなぐ。

#05

(株) ガクトラボ

仁志出 憲聖
KENSEI NISHIDE
Profile

1986年、金沢市生まれ。2010年、金沢大学大学院在学中に、同級生の村本宗一郎と学生団体『KAKUMA NO HIROBA』を設立、代表に就任。学生向け情報配信事業やコーディネート事業、イベント企画などを行いながら、学生プロジェクトを立ち上げる。その後、活動の継続・発展のため事業化を行い、’15年、『株式会社ガクトラボ』を設立。金沢学生のまち市民交流館コーディネーター、石川地域づくりコーディネーター、金沢市商業活性化アドバイザーも務める。

具体的な事業内容を教えてください。

簡単に言えば“学生と地域を結び付けること”ですが、説明し切れないほどあれこれやっています。学生のキャリア支援のほか、フリーペーパー制作やカフェ運営、祭りの復興といった60ある学生団体の活動を支援しています。それから「地域課題解決学生プロジェクト事業」も行っていて、商店街活性化プロジェクトのほか、『数馬(かずま)酒造』の数馬社長たちによる「N-project」にも携わっています。能登の耕作放棄地を活用して酒米づくりから日本酒の仕込み、パッケージまで学生が手がける活動で、立ち上げ当初は、若者に声掛けして人を集めるなど全面的に運営をフォローし、現在は学生相談窓口の役割を果たしています。

今、『ガクトラボ』のメイン業務は「実践型インターンシップ」です。石川県には、優れた技術を持ち、単なるものづくりだけに留まらない意欲的な中小企業が多いんですが、新しい事業を手がけたいけど人出が足りない、もっと売りたいけど伝えることが苦手といった課題を抱えている企業も多い。一方、金沢は有数の学生の街でもあり、何かに挑戦したいと思うやる気のある学生も少なくない。その両者をマッチングさせる事業です。

数日間だけ企業の見学や体験を行う一般のインターンシップと違って、1ヶ月から半年の期間、学生が企業に入って社長のかばん持ちやスケジュール管理といった“右腕インターン”であったり、ブランディングや新事業立ち上げのリーダーであったり、プロジェクトの一端に関われて、学生にとってやりがいが大きい。実際、熱意溢れる若者が入ってくることで、社内の雰囲気ががらりと変わったとか、いろんなことに挑戦するきっかけが生まれたといった企業からの声も多く、組織風土の活性化につながっています。

起業のきっかけは?

大学院の時、ジェット制御の実験や計算などの研究室に入っていました。僕はもともと、ものづくりがやりたくて。研究以外にも、もっと色んな挑戦をやりたいと思いつつも、大学では自由にとはいかない。ある時、水車をつくるプロジェクトを立ち上げ、それ以外にも企業の社長とビジネスプランを立てる経験をしました。それを機に、僕ら学生がずっと研究室にこもっているばかりで、地域のことを知らずに卒業してしまうなんてもったいない、学生はもっと地域に出ていくべきだ、と思ったんです。

自分の世界を決めるのは自分。せっかくなら地域に出てみれば面白いことに溢れているし、いろんな大人がいることがわかる。刺激を求めている学生たちと、やる気ある人材を求める企業という、双方のニーズを感じる中で、何かやれればと思った。幼なじみの村本と2人でサークルを立ち上げ、将来の起業を見越して活動をスタートさせ、企業の社長と学生の交流会などを展開しました。任意団体として起業したのは大学院生の頃でしたが、利益を出していく仕組みに切り替えた本格的な起業は卒業と同じ時期です。

様々な事業を通して、大手企業のサラリーマンやITベンチャー起業家、人材コンサルタント、地域の小さな企業のサラリーマン、東京や大阪のベンチャー起業家など、あらゆるタイプの人たちにお会いしたおかげで、自分がやりたいのは何だろうとリアルに向き合えましたね。僕には憧れる地域の経営者がいて、仕事は大変そうだけど、キラキラしてカッコいい。そんなふうになりたいんです。逆に、正直、こんな人でも起業家になれるんだという方もいて、偉そうですが、それなら僕でもなれるかもとちょっと自信が湧いたことも(笑)。将来を考えていくと、この金沢で地域と学生を結び付ける仕事のやりがいを追求するしかない、まだ大学院生だし、とにかくやってみよう、と。3年トライしてダメだったら、再就職すればいいと覚悟を決めました。

金沢には、儲けより地域のことを優先する、仕事にも遊びにも一生懸命な経営者が多い。そういう方たちを見ると、金沢の街が好きなんだとひしひしと伝わってくる。僕も金沢が大好きです。ご飯はおいしい、美しい山と海、川があり、伝統文化が育まれ、遊びも仕事もそこそこできる、住みよい適度な街。だから、ここに根差して活動していきたい。

起業のための資金づくりは?

実家に住んでいることで家賃や食費がかからず、学部の頃にバイトでお金をしっかり貯められたおかげで起業できたようなもの。サークルを立ち上げるにあたり、村本と1人15万円ずつ出し合って、これは“捨て金”と思って好きなことをやろうと決めました。

金沢市の協働のまちづくりチャレンジ事業の委託金として30万円が支給されましたけど、交流会の開催などですぐにつかい切りました(笑)。とにかくお金はなかったです。

現在、実践型インターンシップ事業における、企業からのコーディネート料などが利益になっていて、事務所も自力で構えられるようになりました。300万円の資本金で株式会社化して申請し採択となった国の創業補助金200万円は、専門家への謝礼金や人件費に活用しました。とはいえ、サークル時代からのボランティアでの取り組みも、半分ほど継続してやっているのもあって、線引きが悩ましいところ。高い質、満足の質を提供する責任感が生まれ、その分振り切ってやれる部分もありますね。

起業で大変だったことは?

お金の工面はもちろんですが、大学院生で起業したので、ビジネスの経験が一切なかったし、教えてもらう機会もなかったので、そういう難しさはありましたね。ビジネスモデルが確立するまではトライ&エラーの連続でした。初めのうち、ビジネス絡みの人間関係を築く中で、つかい勝手がいい学生を不本意なかたちで利用するような人もいて、そんなトラブルを防ぐ方法を考えていくことも勉強でした。

自分の勝手な解釈ですが、成功する起業人は普通じゃだめなんじゃないかって。優秀な大学出身の、まさに天才という“エリートタイプ”か、辛い経験の反動や背水の陣でがむしゃらにやる“ハングリータイプ”かの2つに分かれるのでは。僕はエリートじゃないから、ハングリータイプでいこう、と。だから、兼業のアルバイトもしないと決めた。でも結局、自分には同僚がいないこともあって、食事をおごってくれたり、事務所の場所を貸してくれたりと、なにかと周りの大人の方々が手を差し伸べてくれて有り難かったんですが、ハングリーになりきれなかった(笑)。金沢には、そんなふうに学生を応援してくれる風土が根付いているんでしょうね。

これから起業する人へアドバイスを。

僕は、学生で起業する人がいたら迷わず、「しない方がいい」と言います! それでもやるという人にはもちろん応援しますよ。何事もやってみないとわからないから、思い立ったらやってみればいいと思う。実質的には、起業しても、起業しなくても、それぞれにメリットとデメリットがあります。起業だけを特別なことだと考えずに、一つの選択肢として判断するのがよいのではないでしょうか。

今後の展望は?

実践型インターンシップで感じることなんですが、一定期間で爆発力が加速していく学生も多い。そんな意気込みのある人材こそ、採用の必要があるんじゃないかと思っています。実践型インターンシップは、学生にとっても、自己成長や働く現場を知ることが目的となっていて、実質的に正規採用へとあまりつながっていない現状があります。今後は若い人の採用定着支援にも乗り出していきたいですね。また、事業化してから企業との接点が増えてきているので、ゆくゆくは元々自分がやりたかった、ものづくり分野での取り組みも手がけていければ。

プライベートでは、ケニアにいた友人と一緒にアフリカと金沢をつなげたいと楽しく話しています。ITやグローバル化など、どんどん変わってきているので、自分が何をできるかを考え中です。そんなふうに、遊び半分でやることも、ビジネスの種になっていくと思いますから。

編集:きどたまよ  撮影:黒川 博司

仁志出 憲聖 さんから 寺本 大輝 さんへ

#05仁志出 憲聖

KENSEI NISHIDE

(株) ガクトラボ

やりたい商品「一本」で勝負しているところが、カッコイイ。開発に全力投球し、今もケンケンに尖らせ続けている。ITベンチャーの精神で教育を変えていく、この地域の学生起業家出身ホープです。