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REPORT

コアキナイ塾 vol.2 REPORT
2017年6月に続き、“学び”、“考え”、“一歩を踏み出す”という
3つの視点を軸に行われた、まちなかの学び場「コアキナイ塾」。

“まちなか”というコンセプトにふさわしく、
竪町商店街に新しくできた『金沢文化服装学院』の新校舎にて、
開催された第2回目の様子をお伝えしていきます!
個性を掛け合わせる、“パラレルワーカー”って?
会場となったのは、2017年4月末にオープンした、『金沢文化服装学院』の竪町新校舎。
スタイリッシュな外観に思わず目を奪われがちですが・・・、
特筆すべきは、サテライトキャンパス機能と交流拠点機能を併せ持つ、多機能施設ということ。
特に、1階と2階は、通称「ハルモニー」と呼ばれる交流スペースになっており、
アパレル業界を志す学生や若手クリエイターたちと実社会をつなぐ、“窓口”の役割も担っています。
そんな、名実ともに“まちなかの学び場”で行われた、第2回目コアキナイ塾のテーマは、
「働くことは生きること。個性を掛け算するパラレルワーカー(複業)の秘密」。

ちなみに、“パラレルワーカー”を簡単に説明しておくと、
企業に在籍しながら副業や兼業をしていたり、あるいは、平行して複数の仕事をしている人のこと。
中でも、コアキナイ塾は“起業”というスタイルを目指す塾なので、
今回は、自らの経験や個性を掛け合わせているパラレル起業ワーカーに注目することにしました。

そこでゲストにお呼びしたのが、このお二人。
金沢の石引商店街にある「本と印刷 石引パブリック」のオーナー・砂原久美子さんと、
小松市にある「TAKIGAHARA FARM(滝ヶ原ファーム)」で企画などを担当する、内木洋一さんです。
しかし、「個性を掛け合わせると簡単に言うけれど、そんな方法あるなら誰だって苦労しないのでは」
と思われる方も、少なくないはず。
働き方革命が叫ばれている昨今なら、なおさらそう思ってしまいますよね!?

じゃあ、そもそも自分の個性ってなんなの?それをどうやって見つけていったの?
はたまたそれを仕事にするって実際どうなの?お金になるの?ならないの?などなど、
起業を考えている人もそうでない人も、一度は聞いてみたい「ホントのトコロ」。
ということで、早速みんなが抱く素朴な疑問を、お二人に聞いていくことにしましょうか。
そもそもお二人は、どんなことをしてるんですか?
砂原久美子さんは、2016年7月に、石引商店街にオープンした「本と印刷 石引パブリック」のオーナーさん。
独自の観点でセレクトしたアートやカルチャー系の本をずらりと揃える一方、リソグラフ印刷ができるスペースや
カフェまで併設する、注目の個性派書店を営んでいる方です。
しかし砂原さん、前職を伺ってみると、なんとデザイナーだったという異色の経歴の持ち主。
なぜ売れっ子デザイナーの職を横に置いてまで、本屋業に舵を切ることにしたのでしょう?
砂原
私、東京のデザイン会社で働いていたときに、仕事の糧になるような“資料探し”として、いろんな本屋を回っていた時期があったんです。当時は“仕事のため”だったけれど、でも振り返ってみれば、そのとき、良いものを見聞きする“インプットの大切さ”を学んだんですよね。そのうえで金沢に帰郷してみると、どれだけ情報化社会と言われていても、やはり“実際の目で見て体感する”インプットの面では、地方には格差があると感じたんです。工芸や和食のように、金沢を代表する分野なら、ソフト面もハード面も整っていて、作家さんもたくさんいるけれど、でも例えばもっとコアなサブカルチャーのような分野にも、アーティストや表現者が金沢にはたくさんいるんですね。だからこそ私は、政策的な視点ではなく、地域に根差した視点から、“まちに暮らす一人ひとりの表現やコミュニケーション”をサポートしようって。そうすることで、もうひとつの地域文化が醸成されていくという未来を目指して、『石引パブリック』を始めたんです。

一方の内木洋一さんも、社会人としてのキャリアを辿ってみれば、“カメラマン”からスタートした表現者。
それなのに今は、小松にある農的コミュニティ『TAKIGAHARA FARM』の一員として企画やブランディングに
携わりながら、自ら畑で手を動かし、新たな薬草園のオープンに向けて準備中だといいます。
しかも、小松に加え、長年拠点としていた鎌倉を行ったり来たりしながらの二拠点生活なんだとか。
なぜ、内木さんが写真や企画の仕事をしながら農業に足を踏み入れたのか、その理由が気になってきますよね。
内木
僕、初めはカメラマン、それから外資メーカー、製薬メーカー、そして個人事業主みたいな流れなので、キャリア的には紆余曲折してるように見られるんですよね。でも、これらは全て、物事の表現や世の中の仕組み、ビジネスモデルを学ぶことに繋がっていて、だからこそ僕は “どんな状況でも飯が食える状況”をつくる技を、身に付けてきたかなって思うんです。ただ、ある時交通事故を経験したことがあって、そのとき初めて、ゆっくりと“働くこと”の見直しと、“自分や個性”の棚卸をしていた時期があったんですね。今までは、忙しささえも糧にしながらプロダクトや仕組をつくることに軸足を置いていたけれど、これからはもっともっと、ゆっくりとした流れの中で自分の手を動かしながら、何かを育てていきたいな、と。そしたら、漢方に出会って、かつ現代的な農の探求を掲げる「TAKIGAHARA FARM」の尊敬できる仲間と出会って・・・、そうやって人生のターニングポイントとなるタイミングに、いくつかの縁がピタっとハマったこともあって、今、僕はここにいるという感じでしょうか。

溢れ出るパッションを持つ人たちというよりも、落ち着いた中にも確かな熱意と実力が同居する、
“静かな炎”という表現がぴったりなお二人。人生の流れに逆らわず、むしろうまく寄り添いながら、
自身のベクトルを持ち続けている。その姿に共通しているのは、自分の暮らしを起点にしながらも、
手の届く範囲で、よりよい循環を生み出していこうとしている真摯さのようにも感じます。
起業してみて、実際どうでしょう?
ということで、ここからはゲストの砂原さんと内木さんをもっと知るべく、一問一答タイムに突入です。
参加者に代わって質問をぶつけるのは、コアキナイ塾の運営メンバー陣で、東京から金沢にIターンでやってきた株式会社Hotchikissの敏腕アートディレクター・久松陽一さん。そして、経営コンサルタントでありながら、
農業や教育など多彩な軸で活躍している株式会社MONKの村田智さん。
「今のスタイルに至るまで、これまでどんなことがあったのか?」思わず本音が飛び出した(笑)、
その一部を駆け足でご紹介します!
Q1/手に職を持っているのに、なぜ異業種でのチャレンジを?
砂原
子どもが生まれたので、フットワーク軽く都会に資料探しに行く、ということが難しくなってきて・・・。
だったら自分が本屋をやればいいじゃないか!って思ったのが、最初ですね。本当は、私がやらなくても誰かが似たような本屋をやってくれるんじゃないかって期待してたんですけど(笑)。もちろんビジネスなので、“売れる売れない”っていうのは大事な一方、それだけだと、表現自体も迎合しちゃう。生きていくこと自体がもう表現だと思っているので、表現をするひとのためのパブリックスペースをつくる、というのが私なりの目指しているところです。

内木
僕は、手に職をもっているからこそ、逆にいろいろできるんじゃないかなって思ってるんですよね。
デザインや表現=情報を整理することだから、お金を儲けるためというよりも、生活環境を整えていくことで、生活自体がそのまま生業につながっていくというのかな。だから、異業種に挑戦しているという認識ではなくて、これまでやってきた医療や食、漢方、醗酵、音楽に写真や企画、そうやって自分の幅が広がっているという感覚ですね。

Q2/今拠点にしている場所は、どうやって出会った(見つけた)の?
砂原
自分が店を始めるにあたって、“先輩”になるような方々がいる場所がいいなと思っていて、それで真っ先に考えたのが「商店街」だったんです。中でも、金沢美術工芸大学の学生さんがいたり、まちに音楽やアートが根付いていたりして、自分にフィットしそうな「石引商店街」を選びました。実際、気の合うお店の仲間の家に遊びに行ったり、地元の不動産屋さんが「応援してやってくれ」って、まちのみんなに紹介してくれてすごくよくお世話してくださったりして本当に有り難かったです。そう考えると、私の場合は他の場所だったら難しかったかもしれないですね。
内木
僕の場合は、もともとすでに活動を始めていたコミュニティに参画したので、自分で場所探しから始めたわけではないですね。ただ、「TAKIGAHARA FARM」という場所に身を置いて感じるのは、僻地でもわざわざ人が来てくれる場所は、土地自体にも魅力がある。そこに改めて気付かされたということでしょうか。ある意味競合がいないし、物理的なコストも安い。ただ、そこにはPR力も不可欠ですけどね。
Q3/起業して苦労した点を教えてください!
内木
小松に住むということは、これまで鎌倉で培ってきたコミュニティや人脈と“離れるという覚悟”と、それと相反するように、限界集落に“入っていく苦労”があるかなと感じていますね。都会に住む同年代の人たちと築いていくコミュニケーションとはまた全然違う形で、地域に暮らす人たちと、家族のような関係性を築いていく。それにはやはり時間がかかることなんですよね。でもだからこそ、一度溶け込んでしまえば互いに助け合えるし、もらいものでも暮らしていけたりするのが、里山起業の魅力でもあるかなと思ったりしています。

砂原
私は、デザイン→本屋という異業種への挑戦だったので、人脈もないし業界の仕組やお金の流れもわからなくて、5年くらいは情報収集や起業計画に費やしてましたね。やることなすこと新しいことにぶちあたって解決していく間にまた新しい課題が出てきて・・・の繰り返し。ただやはり、貯金はしていたけど細かなところで出費は重なるもので、資金という面では、今もまさに苦労の真っただ中ですね・・・(笑)。

個性を掛け合わせるということで、どちらも順調な起業への道かと思いきや、
起業や独立に際し、実は様々な苦労や苦悩を抱えている砂原さんと内木さん。しかしそれでもなお、
“なぜ起業するのか”という本質を紐解いてみれば、自分に嘘をつかず、信念を貫き通している。
それこそが、自身の生業を長く続ける何より大切な礎だと、改めて気付かされた気がします。

誰でもわかる、やさしいどんぶり会計ワークショップ。
しかし、生業を長く続けるためには、“確固たる信念だけでは継続できない”というのも、また事実。
砂原さんも現在苦労の真っただ中というように、資金や利益という“お金”に関する計画を、
現実的に算出していくことは、起業家にとってなくてはならない要素になります。
そこで、司会をしている経営コンサルタント・村田さんから、“誰でもわかる会計ワークショップ”を伝授してもらうことにしました!なんと、その名も「やさしいどんぶり会計」(笑)

しかし侮ることなかれ、どんぶり会計といっても“適当な目分量”ではなく、
“適切な目分量”として算出するのが、村田流会計の特徴です。

村田
会計と聞くと難しいイメージがあるかと思いますが、今回は決算書が読めなくても大丈夫。
まずは自分がやろうとしている事業にどれだけのお金がかかるのか、必要な資金や利益がどれくらいなのかを算出するために、“ビジュアル化”してみたいと思います。

なんと、エクセルや細かな数字とにらめっこするのではなく、必要な数字をビジュアル化するという
斬新な手法!少し身構えていたように見えた参加者のみなさんの表情も、それを聞いて、なんだかほっとしたような雰囲気が漂います。

しかし、村田さんが次に参加者に投げかけたのは、どんぶり会計の実践編。
とあるパティシエの開業計画について、チームで事業計画を考えてみようというお題でした。
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■開業資金/300万円。
■返済計画/5年間で60回払い(毎月5万円返済)
■売り上げ/看板商品のティラミス(1個500円)を、1日30個完売する。
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実はこのパティスリー、このままだと毎月3万5千円の赤字が出てしまうということで、
どうすればケーキ屋は存続できるのか、チームに分かれてディスカッションしてもらうことにしました。
その中で出て来た案をご紹介すると・・・、
・人件費を下げるより、1日の販売個数を増やすべき
・商品の種類を増やすべき
・原価を下げて、販売金額はそのままに。ただ、売り方を変えるべき
・個人事業主だから、むしろしばらくは人件費を計上しなくてもよいのでは
などなど、様々な視点からの意見が出てきました。

村田
今、みなさんが挙げてくれたように、やり方というのはいくつも存在しているし、
正直、“正解”はないんですね。ただひとつだけ確かなことは、自営業や個人事業主というのは、
どこにどんな投資をしていくかということを、シビアに考えることが不可欠だということ。
自分の人生をどう見せていくのか、それでどんな生計をたてるかというのが、
まさに生業ということなんです。

起業独立した人のうち、実はその9割が、3年でうまくいかなくなるという厳しい現実があるんだそう。
だからこそ、自分の人生をどう描き、どんな生計を立てるのか。そこにどんな投資をするのかは、
起業を目指す者にとって、避けて通れない観点ということが浮き彫りになったワークショップでした。
それでもやはり起業や独立は、自分らしい人生を生き切るための素晴らしい選択肢のひとつであるのは、
砂原さんや内木さんを見ても一目瞭然です。
そんなお二人から、最後に起業を目指す“卵”たちにアドバイスをいただきました。

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砂原
起業したら、あれもこれもしなきゃって頭がいっぱいになるけど、
「なぜ?どうして?なんのために?」という部分は、やっぱり置いてけぼりにしてはいけないということ。
あとは、自分の味方になってくれたり、応援してくれたりするような人は、一人でも二人でも傍にいてもらえるといいですね。

内木
起業する以前に、「あなたはどういう人間なのか」ということを、ちゃんと話せるようになっておくことって、実はすごく大事だと思うんです。働くことは生きることであって、お金を稼ぐためだけじゃないんですよね。だからこそ、人に興味を持ってもらえると、いろんなところに繋がっていけるし、その好奇心を糧に、また学び続けることができるでしょ。そうやって、好きなことをしている自分の背中を押してあげられるのも、実は自分なんだよって、そう思っています。

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今後は、リソグラフ印刷やカフェに加え、作家を招いたトークイベントやZINEづくりのワークショップ、
ライブイベントなどを強化させ、まちの小さな出版社のような存在になっていきたいと語る砂原さん。
一方、自身が病気と向き合った経験から、現代らしい農業を探求しつつ、世界でも類を見ない薬草園と
そこに併設する宿泊環境をつくりたいと語る内木さん。

“自分らしい個性を掛け合わせる”と言っても、得意なことだけを取り合わせた“いいとこどり”でもなければ、
一朝一夕で身に付けたスキルの叩き売りでもない。
お二人のお話を伺って感じたのは、等身大の自分が生きていくうえで悩みながらも、
磨くことを怠らなかった、その“努力”の結晶を“個性”に変えている、ということだったように思います。

だからこそ起業に大切なのは、自分を信じて研鑽し続けること。
そんな当たり前のことに気付かされた、今回のコアキナイ塾だったのではないでしょうか。

さて、いよいよ次は第3回目。
11月28日(火)に、「ITビジネスプラザ武蔵 CRIT」にて開催しますのでお楽しみに!

文:喜多 舞衣(オノマトペ)