はたらこう課

Interview

リレーインタビュー

家業の不動産業とアロマ事業の二刀流。
世の中のニーズを捉えて柔軟に変化する。

# 33

高田 恵里香

ERIKA TAKATA

不動産・アロマ事業

or

Profile

1984年、金沢市生まれ。20歳の時にオーストラリアの専門学校で2年間留学し、メイクやネイル、エステなどの美容全般を習得。帰国後は東京の飲食店やアパレル店に勤務。金沢に戻り、アパレルブランドに5年勤めた後、ランジェリー&ネイルサロン「or(オール)」を独立開業。仕事の傍ら勉強に励み、宅地建物取引士資格、賃貸不動産経営管理士の資格を取得。ショップ経営と並行して不動産会社での実務経験を積む。引き継いだ家業の不動産業も合わせて、2019年に合同会社を設立。不動産部門では、物件の修繕や委託先の仲介業者への対応などの管理を行う。現在はアロマ事業に重心を置き、香りの空間コーディネートを手がけるほか、’20年11月に天然アロマオイルを使った自社開発のハンドソープとアルコールハンドジェルを発売。

起業までのいきさつは?

高校を卒業後は東京の外国語専門学校に入学して、元々興味のあったビューティー関係をトータルに学ぶためにオーストラリアに2年留学しました。帰国後は、東京の飲食店やアパレル店に勤めていたのですが、27歳の時、母が他界したことで、金沢に戻ることを決心しました。ファッションも好きなこともあって市内のアパレル店で勤務していました。姉がニュージーランドに住んでおり、私が家業である不動産業を継がなければならないとわかっていましたが、不動産業は法律が絡む事業のため、国家資格が必要となるので、仕事の傍ら予備校に通いながら集中的に勉強して、宅地建物取引士の資格を、翌年には賃貸不動産経営管理士の資格も取得しました。5年間の実務経験の中では、実際に仲介業者でも勤務し、その時は金沢市内、特に金沢駅周辺の物件をお客様にご紹介・ご案内していた経験もあります。現在は、委託先の仲介業者を通して入居者様のお声に対応したり、退去時の物件の修繕・メンテナンスなどを行ったりといった不動産管理の業務が中心となっています。

それと並行して、アパレル業にも挑戦したくて、中村町にランジェリー専門店を独立開業しました。年に数回行き来するニュージーランドで出会ったお気に入りのブランドをはじめ、自分が着たいと思うものに絞っていたので、客層はそのテイストを求めてくださる方が中心です。ランジェリーはサイズ合わせがとても大事なので試着は必須なのですが、輸入ランジェリーの取り扱いは都市部のデパートやセレクトショップしかありません。頻繁に行くことができないとお困りの方が、当店のInstagramの投稿を見つけていただき、口コミなどもあって、隣県からのお客様も多く来店いただいています。

現地に訪れて交渉することで商品の仕入れはわりとスムーズに進みましたし、不動産業に携わる中で得られた知識や情報を活かし、テナントは自社物件ではなかったですが、ピンポイントで探すことができ、交渉も問題なく進められました。また、仲介業者の立場と入居者の気持ちのどちらも体験できたことは今後の不動産の仕事にも役立ちそうです。

起業で大変だったことは?

金融機関からの融資は受けておらず、テナントの内装費用のために国の補助金を申請しました。しかし、当時はそういった知識に触れる機会が全くなく、情報を得ることすら大変でしたね。どこに相談すればよいのかわからず、とにかくいろんな人に聞いて回りました。経営者である父にも国の補助金制度や税金などについて教えてもらい心強かったです。申請に向けて、商工会議所に何度も通ってレポートの書き方や事業の進め方などを教わりました。何事もやってみないとわからないし、ステップを追うごとにまた違った困難にぶつかるといった感じで、とにかく多くの方に助けていただきながら、なんとかめげずに開業にこぎつけられたことはかけがえのない経験となりました。

3年前に個人事業主から法人化した際も、経営の仕組みが大きく異なり苦労しました。特に税理士との話し合いでは、知らないと困ることがたくさんありました。不動産業界も同じですが、経営にかかわる法律がどんどん変わっていくのに、情報は自然と入ってくるものではないので、つねに自分から情報を収集して吸収していかないといけません。法人化といっても小規模経営なのでまだ楽な方かもしれませんが、事業計画書も個人事業主として起業した時とは大幅に違いました。長く経営していかなければなりませんし、社会的責任として求められるものが大きいと感じています。

今も国や自治体によるコロナ禍の支援策がいくつも出てきていますが、どれに当てはまるかを検討して申請にトライさせていただくも、なかなか難しくて…。こちらからしつこいほどアプローチしないと情報自体も得られません。だから仕事の半分以上は、情報収集といってもいいぐらいです(笑)。

ランジェリー販売からアロマ事業にシフトしたのは?

テナントショップでは、ランジェリー販売以外にネイルサロンも設けました。そんな中、アロマにかかわる機会を得て、ご来店されるお客様のために香りを焚いたり、ショップカードに香りを付けたり、ランジェリーに組み合わせる香りの提案をしたりして、多くの方に喜んでいただけて、手応えのようなものを感じました。コロナ禍にともない、輸入ランジェリーの取り扱い自体が難しくなってきたこともありますし、昨年は私が体調を崩して入院・手術もして、初めて身体の変化を実感したこともあります。世の中の不安定な状況とも重なり、今後を考えて方向転換すべきだと思い至りました。

テナント店舗は引き払い、実家の客間をそのまま活用するかたちでオフィス兼サロンを開設したのを機に完全予約制にしましたが、ネイルサロンもランジェリー販売も、有り難いことに常連のお客様に引き続き定期的に来ていただいています。ネイル、ランジェリー、アロマと手がける内容は変わっていませんが、そのバランスを変えて、特に精神的なケアを求めていらっしゃるお客様に応えていきたいと、アロマの仕事を主軸にいろんなアプローチで広げているところです。テナントの頃から香りのプロデュースは行っていたものの取引件数はまだまだ少ないんです。例えば、台湾料理店のエントランスやバスルームを担当させていただいた時は、香辛料をイメージした香りで演出しました。そんなふうに、企業やブランドの演出したいイメージやターゲット層に合わせてオーダーメイドで香りをブレンドしてお作りさせていただいています。私は民間のアロマテラピーの資格を持っていますが、アロマの仕事には必ず資格が必要というわけではありません。それでも今後香りの仕事をさらに本格化していくことを見据え、確かな知識に裏付けられた製品づくりやサービスのために、より専門的な資格も取得したいと考えています。

通常は不動産の仕事をさせていただいていることから、ハウスメーカーさんや住宅展示場、宿泊施設などへ営業を行っています。また、父が所属するロータリークラブのつながりやお客様の紹介などにより、病院・クリニック、建築関係など様々な業種のお客様がいらっしゃいます。香りはどこでも取り入れられるアイテムなので、とりわけ空間を限定せずにアプローチできたらと思っています。私の実感としては、40代以降の男性の方においては、アロマはまだまだ浸透していない印象を受けます。自分の活動する範囲から少しずつ広めていきたいですね。

金沢で起業する魅力は?

起業してから人とのつながりの大切さを常日頃感じます。いくつも事業を展開しているわけではないので、自分の特化する分野では自然とつながりが広がりますが、他業種の方と触れ合うことは新しいことや良いものを知る有意義な機会ですから、普段行くお店やイベント、人の紹介など、なるべく求めて増やすようにしています。石川県の方はどちらかといえば奥ゆかしい方が多く、あまりオープンに話されませんが、人と人のコネクションが強いので、必要な時に接点をつくりやすいですね。ある人につながると、そこから次々と人脈が広がっていくというのは、勤め人の時とは違う感覚です。それから、私は金沢出身ではありますが、若いうちから地元を離れていたことで、本当の魅力がよくわかります。街並みが美しく、ご飯もおいしい金沢は、自信を持っておすすめできる街です。

これから起業する人へのアドバイスを。

メインとしている不動産業は、衣食住の住、みなさんが必要とする空間になるので信頼はすごく大事だと思いますが、そういったことは業種にもよるので、あまりこれだというのは違うんじゃないかと思っています。だから、こうすべきというのはあまり気にせずに、それぞれのスタイルで、自分がやりたいと思って入れ込んだ業種に関わっていけばよいのではないでしょうか。今は昔と違って独立しやすい環境ですし、どんなサイズでどんなスタイルでといったことにも多様性が認められていますから、ご自身のスタイルを追求されていけばよいと思います。

今後の展望は?

不動産事業においては、こんなのが欲しいけどどこに相談したらいいかわからないというお声を多くいただきます。実際、この業界は古くて暗い、気軽に聞けない、難しそうといった、あまり前向きなイメージを持っていただけないので、もっとオープンなかたちで皆さんに利用していただける取り組みができればいいなと考えています。

アロマ事業では、今年9月に天然アロマオイルを使ったオリジナルブランドのハンドソープとアルコールハンドジェルを自社開発して販売をスタートさせました。メーカーさんと話し合いながら、半年以上かけて幾度も試作を重ねて製作しました。日常品として肌にのせるものなので何よりも使用感を重視して、植物由来の素材でもベタベタしない触感や、程よい泡立ちを追求しました。特に香りの成分にはこだわりました。使用する方がどう感じられるかを念頭に、性別や年齢を問わずに使っていただけるものをと、お客様にも試していただきながら、他のプロダクトにはあまりないような個性的な香りに仕上げました。今後は日常使いの心地よいスキンケアアイテムをもっと増やしていきたいと思っています。

現在はテナントではなく予約制で営業しているため、定期的にショールームなどの空間をお借りしたり、イベントに参加したりするなど、当社の商品やサービスを多くの人に知っていただく機会を増やしていきたいですね。自社ブランドのアロマ製品は地産地消という観点でまずは地元の方から使っていただきたいという思いがあって、イベントは今のところ金沢で参加しています。取引先はまだ少ないのですが、富山のセレクトショップでも取り扱っていただき、オンライン通販も行っています。

コロナ禍で私たちの生活スタイルはガラッと変わりました。頑固に変わらない良さもあるかもしれませんが、今後は変わることに対して自分でブロックを立てずに、時代とともに変化していく必要があるのかなと考えています。5年後10年後、やりたい分野は頭の中にすでにあります。その可能性を広げるために、ポイントポイントでいろんなテーマをつくっておくことが大事だと思っています。

金沢は出発地点ではあるのですが、あまりそこだけに特化し過ぎるのではなく、自分がその時に出会った人や環境、タイミングによって何かできたらいいと思っています。いずれコロナが落ち着いたら、仕事の幅を広げるためにニュージーランドの行き来を利用して、地元以外にも事業展開していけたらと考えています。

20代の若い頃は自分がやりたいことをかたちにすることに夢中でしたが、40歳手前となった今は人のお役に立てるお仕事をしていきたいという思いに変わってきました。それが具体的にどういうかたちになるかまではまだ定まっていませんが、今自分がいる場所である不動産やアロマの仕事を通して携われたらいいですね。

2021.10 編集:きどたまよ 撮影:黒川博司