はたらこう課

Interview

リレーインタビュー

SNS投稿をきっかけにプロの道へ。
グッズ展開で自作イラストを広めたい。

# 44

荒木 英里香

ERIKA ARAKI

イラストレーター

MAERIKA

Profile

1990年、金沢市生まれ。金沢西高等学校、名古屋女子大学卒業。金沢市内の中学校で英語講師として5年間勤務。市内の金箔メーカー「箔一本店」にてパートとして事務職に就く。退職後、アルバイトをしながらSNSを通じてイラストや似顔絵の仕事を請け負う。2023年、イラストレーター「MAERIKA」として独立開業。似顔絵・ロゴの制作やキーホルダー・ステッカーなどのグッズの制作・販売を手がけるほか、市外・県外のイベントにも参加している。1女の母。

起業までのいきさつは?

元々はパートで事務の仕事をしていましたが、お店が観光業ということもありコロナ禍の影響からお客様が激減して、週1日程度の出勤になってしまったんです。家で過ごす時間が増えて時間を持て余していました。元々絵を描くのが好きで自作イラストをInstagramに投稿していたら少しずつフォロワーが増えていって。ちょうど私の娘が髪を結べるようになった頃、なかなか可愛いヘアゴムがなかったので、それなら自分で作ろうと、飾りの部分にイラストを描きました。SNSにアップすると「私も描いてほしい」との依頼が来るように。フォロワーといってもほとんどは知り合いのつながりだったので、最初はお金をいただかなかったですし、友達からの要望で似顔絵も描くようになりました。次第にリクエストが増えていき、イラストの受注や商品化を進めていくことに。実はイラストについては一度も習ったことがなくて趣味でやっていただけなんです。だから、こんなふうに自分が起業してイラストレーターとして仕事ができるなんてまったく思っていなくて、自分でもびっくりしています。

 

イラストレーターとなる上で、単にイラストを描くだけでなく、お客様の手元に形として残るものを提供したいとの思いがあり、他の人の目にも触れるような身近なアイテムを介して自分のイラストが少しずつ広がっていけばいいなと思っています。売れ筋はステッカーやキーホルダーです。例えば、スマホの背面に貼るためのお客様の似顔絵入りのステッカーは、写真を撮影する際に他の人にも見てもらえる機会にもなります。他にもお子さんの似顔絵を入れたカーマグネットなども作っています。商品を身に付けてくださる方を通じて新規のお客様のオーダーにつながることも多いんです。

起業で大変だったことは?

起業といっても店舗を持たずに自宅で仕事をするので、資金の準備のための融資や助成金の申請も必要がなくて、新たに準備したのはiPadとiMacだけ。それまで手描きでイラストを制作していたんですが、いろんなアイテムを商品化するためにはデータ化できた方が便利ですから、今はiPadでイラストを作成しています。

 

大変だったのは、イラストの仕事一本になるまでの時期。9時から17時までアルバイトの傍ら注文をこなしていたので、制作のための時間が取れなくて。子どもがまだ幼かったこともあって、早朝に起きたり寝る時間を削ったりして、なんとか自分の時間をつくるしかなくて体力的に限界が来ていました。アルバイトを辞められるまでに、リピートしてくれるお客様たちに支えてもらったおかげで3年かけてここまでやって来られたという感じ。それでも起業後はアルバイト収入の見込みがなくなることに多少不安を感じました。だから、イラストだけでなくデザインの仕事も受けられるよう、ブラッシュアップしていかなければと考えています。

 

とはいえ、周りにイラストの仕事をしている人がいないので、SNSやYouTubeで見つけたイラストの画像や動画で描き方を参考にしたり、作品の見せ方の参考にしたりしています。イラストの仕事はタブレットとパソコンさえあればできますが、ひらめきやアイデアも大事。例えば打ち合わせの際には「だいたいこんな感じかな」というイメージが浮かびますが、もちろんそうじゃない時もあって。そうなるといつも頭のどこかにモヤモヤ感がある状態です。イラストの参考になりそうなものには何でも目が行っちゃいます。例えば、Instagramに投稿されているネイルの色合いが参考になると思ったら、すぐにスクショして残しています。ただイラストそのものに関しては、なるべく自分のスタイルを崩したくないので見たものを反映させることは少ないですね。

 

仕事をする中で一番嬉しかったのは、販売サイトでお客様に書いていただいたレビューの中で「世界にひとつしかない自分のものを作ってもらえて本当に嬉しかった」「身近に持てるものが嬉しかった」というコメントをいただいたこと。まさに自分が仕事としてやりたかったことがお客様にも通じたと思えました。

 

私のイラストにはクセのあるものや、リアルなタイプとかパターンがいろいろあって、そこから好みを選べるスタイルです。似顔絵の依頼はお客様から写真を提供いただいて作成して、納品の前に一度確認していただくのですが、時には作成したイラストについて「ちょっと違う」とか「ここを直してほしい」とリクエストが入ることもあります。自分の中ではベストなものを出していますが、お客様の要望にはきちんと対応しています。ただこれ以上手を入れると自分のスタイルが変わってしまう場合には丁寧に説明して納得いただくようにしています。

 

宣伝はSNS発信のみですが、Instagramだけだと最近は少し弱いんです。皆さんフォローしている人数が多い分、どうしても情報が流れがち。今登録してくださっている2,900人ほどのフォロワーの全員に必ず見てもらえるために、公式LINEにInstagramや販売サイトなどの情報を集約して、ここを開けば全部わかるようにしており、月に1度だけオーダーを受ける日を決めて情報を流しています。

金沢で起業する魅力は?

いい意味で狭いことです。友達の友達は友達みたいな感じで、いろんな人とつながることができる。Instagramの投稿を友達が広げてくれたことから始まったイラストの仕事は、金沢が狭いからこそ広がったというのもあるのかなと思います。ご近所で私の手がけたステッカーが貼られた車を見かけたことがあって、こんなに近くにお客様がいるなんて、金沢はほんとに狭いなって(笑)。以前は中学校の英語講師をしていて、学生に教える時に使う教材だけでは物足りなくて自分で絵を描いて英語のカードなどを作っていました。その時の生徒だった子からオーダーをいただいたこともあって驚きましたけど、教員の時の経験もここにつながっていたんだって思えますね。

これから起業する人へのアドバイスを。

大それたことは言えないんですが、起業というと「事前にあれこれ準備して」みたいな、すごく大変なイメージがありますけど、私のようにそこまで深く考えなくても起業できるということでしょうか(笑)。それでもたった一人で始めるという部分では、一番大事だなと思ったのはやっぱり人脈ですね。人とのつながりは事業を拡げていくためにも必要かと思います。

 

私の場合は、お客様が友達から派生していった感じなので、同年代の主婦の方が多いですね。最近はイベントにもたくさん呼んでいただけるようになり、自分の車で行ける範囲で市外や県外のイベントに積極的に参加しています。ワンちゃんのイベントに参加して以来、ワンちゃん好きのお客様も増えて、先日はドッグカフェを経営するお客様の紹介から大きな企業からお仕事をいただく機会も得られました。北海道から沖縄まで幅広くオーダーをいただくようになって、一人でやっているものの一人じゃないみたいな感覚。「ご縁に感謝」という言葉は当たり前のことですが、まさにその通りだなと改めて実感します。

今後の展望は?

イラストだけでなく他のいろいろな仕事へと拡げていくやり方もありますけど、私としては一つのものを突き詰めて質を上げていきたいです。お客様に喜んでもらうためにも自分の技術をさらに磨くことが一番大事かなと思います。ただ、イラストの仕事につなげる意味でもデザインの仕事もやっていきたいという思いが数年前からあります。ロゴ制作の仕事などを本格化させるためには、グラフィックデザインソフトのillustratorを使いこなすスキルをしっかり身に付ける必要があります。それ以上に自分の感性をもっともっと磨いていきたいですね。