はたらこう課

Interview

リレーインタビュー

地域や人とのかかわりが
ものづくりへの刺激をもたらす。

# 1

中田 雄一

YUICHI NAKATA

陶芸家

ねんどスタジオ

Profile

1980年、北海道美唄市生まれ。2005年、東北芸術工科大卒業。在学中、九州で陶芸を学ぶ。’07年、卯辰山工芸工房修了。作家のアシスタントを経て、’11年、金沢市材木町に『ねんどスタジオ』を構える。個展、グループ展などで作品を発表している。制作活動の傍ら、土日に1日2組限定の陶芸体験を行っている。

なぜ陶芸の道に?

もともと絵が好きだったし、ものづくりが好きだったのはあるんですが、陶芸の道に入ったのは気が付けば、という感じなんです。

陶芸ってクラフトや文化的なものが注目されがちだけど、食にも関わっているし、土壁など建材にも使われているくらい、土から広がることって多い。例えば、ストレスが溜まると人間の体は静電気を帯びてくるという性質があるらしい。だから、土いじりをすると癒されるというのは、土が静電気を吸ってくれるからと言われています。それから、神輿が担がれるのは、はもともと神の清らかな魂を保つために、足に土が付かないようにするためという、宗教的な側面もある。そんな土にまつわる話はいっぱいあるんです。技術的な部分も精神的な部分も、様々な世界とつながっている土は、自分の色んな興味を受け止めてくれる素材。そこに魅力を感じて、陶芸の道に入ったのかもしれません。

起業のきっかけは?

僕は北海道生まれで、大学在学中、夏休みや春休みを利用して波佐見の登り窯で陶芸の勉強をしてたんですが、金沢の卯辰山工芸工房の存在を知って、受けてみたんです。以来ずっと金沢在住です。工房での研修修了後は、陶芸作家のアシスタントをしていて、そのうちそろそろ独立しないと、と考えるようになって。資本金や製作スタイルの面から考えて、僕は僕らしく、身の丈に合ったカタチで独立しようと踏ん切りを付けました。

会社組織の中で能力を発揮して伸びていく人もいますが、僕は長所も短所も含めて自分の個性を出して、向き合っていきたいと思ったので、起業を選びました。天気がいい日にはどこかに行きたくなるし、ついさぼりたくなるのが僕の短所。工房の扉をガラス張りにしたのも、さぼれないようにするためです(笑)。

苦労したのは、工房の場所探し。金沢だけじゃなく、全国的に探していたんですが、なかなかいいところがなくて難航しましたね。なにより、窯を使うことがネックとなり、ほとんどの物件は消防法に引っかかってしまうんです。結局、この畳屋さんだった古い建物を最大限に活かし、自分で改装しました。壁も塗ったんですが、土を混ぜて建材づくりからやりました。出だしは資金も少なくて、ロクロも頂きものの1台だけでのスタートでした。

材木町は、友禅や建具など、ものづくりの心が今も息づく古い街。いい地域だと思ったんですね。僕は、自分から臆せずしゃべりかけていく性格なので、地域にもすぐ馴染めましたね。生きていく中、失敗するかもしれないけど、ここに出入りする色んな人とつながりながら考えて、仕事のあり方を少しずつ変えていけばいいかな、と。だから今だって考え続けているわけです。

土日限定の陶芸体験が好評だとか?

地域の人たちから言われて始めたことなんです。正直、最初はそんなことまったく考えられなかったけど、自分の足場を見てもらうのも仕事の一環なのかなと思うようになりました。陶芸に興味がない人に見てもらうことも、工房をこの地に構えた意味があるのかもしれない、と。『ねんどスタジオ』って、誰にもわかりやすい名前を付けたのもそんな理由からです。

陶芸という知恵と工夫を活かして生きることを伝えてゆきたいと思いますが、別に「あんな風にはなりたくない」というのでもいいんです。若くても自分の足で立つ生き方が、誰かの何かのきっかけになったらいいですね。

うちの陶芸体験は、1日2組のみ。はじめに、お茶とお菓子で寛ぎながら、土や陶芸について色んなお話をするんです。その後、手びねりやロクロで、好きなものを思い思いにつくっていただきます。粘土の量は制限なく、時間内に何個作品をつくってもOK。後でベストなものを選んでもらうスタイルをとっています。なぜかというと、本来の陶芸の仕事を少しでも感じ取ってもらいたいから。僕ら陶芸家は、粘土の量を考えながら作品をつくらない。これだけしか粘土がないから、つくれるものが限られてしまうっていうのはおかしい。そこに一般の方が感じる陶芸と、作家のそれとのズレが生まれてしまうんですね。

おかげさまで予約が入っています。ショップカードをあちこちに置かせてもらったぐらいで、特に宣伝はしていないんですが、なぜか観光客が多いですね。あと家族連れも増えています。貸し切りだから、お子さんが歩き回っても気にせず、わいわいやれます。3歳のお子様から90歳の方まで、幅広く楽しんでもらっていますよ。

この陶芸体験を開くことは、お客と目線を合わせたり、言葉を選んだりすることが、自分にとってもいいスパイスというか、栄養になっていて、自分のうつわにも確実に返ってきていると感じますね。

金沢の街や人の印象は?

歩いて回れるし、一日の生活の選択の幅が広いのが魅力です。例えば、買い物行って、納品行った後に、お茶したり、ギャラリー見たりして帰ることができる。金沢の食やお茶などを見ても、狭い地域で暮らす工夫が色濃く感じられますね。すべてのものとコミュニケーションをとりながら積み重なってきているのがすごくいいと思いますね。それと方言も好きです。方言の仕組みでその地域がわかるんですよ。内々でつかう言葉がすごく多くて豊かな地域だと思います。

それと、金沢の人は、特にうつわについて、モノをつかうというより、モノを揃えることを重視しているように思いますね。このうつわは、こう使わなきゃいけないという考え方が根強いのかも。地域によっても違うんでしょうが、贈り物をする習慣がどんどん減っていく中で、うつわから何かきっかけが残っていけばいいですね。

これから起業する人へのアドバイスを。

よいことも悪いことも自分そのもの、現状がすべてだと思うんです。それを理解して、どう進めていきたいかに向き合ってもらいたいですね。若い人は時間をかけて、トライ&エラーを繰り返して、少しずつ修正していけばよいと思います。人と違う個性を大事にしながら、しっかりやっていってもらいたいですね。

今後の展望は?

今は結構楽しくやれている時期です。だから、目標としてはうつわで広がっていくことにウェイトを置きたいですね。この陶芸の仕事が何かのきっかけになればいいな。仕事をつくって、仕事でコミュニケーションする、ということかな。

編集:きど たまよ  撮影:黒川 博司