はたらこう課

Interview

リレーインタビュー

生まれ育った街への貢献に結び付けたい。
自分の夢を叶える、通過点としての起業。

# 2

岡川 透

TORU OKAGAWA

料理人

PLAT HOME

Profile

1984年、金沢市東山生まれ。20歳から料理の道に入り、自分の店を持つことを目標に掲げ、石川県内の和食料理店で研鑽を積む。2015年5月、『PLAT HOME』を開業、独立を果たした。

起業のきっかけは?

僕は、茶屋街のある東山出身。今やひがし茶屋街は金沢の観光名所として、連日、大勢の人で賑わっていますが、幼い頃の僕にとっては、この街全体が我が家のようであり、遊び場でもあったほど。近所には、料亭や洋食屋もあるので、料理人たちが仕事の合間に遊んでくれたり、僕も洗い物や下げものを手伝ったりして、ほんとに楽しいひとときでした。振り返れば、そんなふうに料理の世界が当たり前に、身近に触れられていたことが自分にとって大きな影響を受けたんだと思います。学校を卒業して、料理の道に入り、金沢の料理店数軒で修業を重ねて、ずっと和食一筋です。ちなみに、僕は幼い頃から食べることが好きで、それがきっかけで丸々太って「ぽんた」ってあだ名がついたんです。今でもみんなからは「ぽんた」と呼んでいただいてます。

実は、10年ぐらい前から、自分でお店を出そうと企んでいたんです。そこで一体何をするのかを自問していました。もともと「人の集まる場」が大好きだったから、僕も大勢の人が集う、楽しい場所をつくってみたい、と。そのために出来ること、それがたまたま料理だったというわけです。30歳を区切りに、何の根拠もなかったけど、ともあれ何かやるぞって決めたんです。

当時アンティークショップに勤務していた高校の同級生がいて、タイミングが合ったら、いつか一緒に何かやろうと言っていたんです。さっそく声を掛けると賛同してくれ、力を合わせてこの店を出すことに。店舗のインテリアについては、すべて彼に任せました。金澤町家研究会から紹介してもらった100年以上の蔵をリノベーションしたんですが、壁にボードを貼り付けたり、ペンキを塗ったりと、4、5ヶ月ぐらいかかったんですが、ほとんど自分たちで仕上げたんですよ。

店名は駅のPLAT HOMEをもじったんです。発着点だったり途中の乗り降りだったり、人の行き交うところ。この店を夢や目標への通過点と考える僕たちにぴったりだと思っています。それにこのエリアは、生まれ育った東山と、金沢の中心ともいえる片町、金沢の玄関口である金沢駅、3点の真ん中に位置していて、まさに通過点。あともうひとつ、「ぷらっとおうちに」という意味も掛けているんです。ローカルの人も県外からの人も外国人も、みんなが混ざり合って、良い空間になればいいなとの思いがあります。

開業されるまでに苦労したことは?

うーん…(沈黙)。なかったですね(笑)。どれもこれも面白いことばかりでしたから、何事も楽しんで取り組んでこられました。

開店資金の借り入れの相談に訪れた、いくつかの金融機関から、国の創業補助金の応募についてなど、色々とアドバイスをいただきましたし、近隣の住民の方たちの知恵もいただき、大いに助かりました。

オープンにあたって、特に大きな宣伝は行わず、SNS上で情報を発信するだけにしました。それに注目してくれた個人のお客様のほか、雑誌の編集者に取材していただいたり、企業の方が団体のご予約を入れてくれたり…。ご縁というか、フィーリングの合う方たちに来ていただいているといった感じなんです。

苦労ということではないけど、あえて言うとしたら、まだ自分の思惑には到達していないということかな。本当はランチ営業もしたいし、朝食も深夜営業もしたいし、やりたいことばかりです。でも、まだまだ始まったばかりだから、今はそのためのベースづくりの時期と捉えて、しっかり足場を固めないと。これから徐々にチャレンジしていけばいいかなと思っています。

仕事を通じての金沢の街や人の魅力とは?

金沢の文化に触れながら、料理人という仕事ができることですね。金沢は、茶道やお花といった豊かな文化が根付く土地柄。もちろん街並み自体もそうですが、店の佇まいやもてなし一つひとつに、そういった金沢の要素が息づいていることが誇らしい。それは何も金沢らしい食材や料理などを意識的に取り入れるという意味じゃなくて、そこはかとなく醸し出されるということです。僕もますます、人と人が出会う場所にふさわしい、金沢らしさを活かしていきたいですね。

それから金沢の魅力は、なんといっても“人”です。金沢に来たら、どこ行って何をしたらいいかと観光客の方から聞かれがちですが、どんな街並みやお店も、それを見て、食べて、帰るだけって、あまりにも寂しいことだと思いませんか。もっとその土地の人と触れ合うことをお勧めしたいんです。金沢の人の面白いところ、温かいところ、時にお節介な部分も含めて、感じ取ってもらえればいいのではないでしょうか。

これから起業する方へのアドバイスは?

県外の方が起業する場合であっても、この先関わっていくのは金沢の人間。だから、とにかくローカルの人といっぱいしゃべって欲しいんですね。色んな人と話してみて、自分がやりたいことを思い切って言ってみると、力を貸してくれるものなんです。僕の時も実際そうだった。自分が「やるぞ」と宣言した途端、友人や知り合いたちが「お前が金沢でやるんだったら、こういう人がいるぞ」と相談できる人を次々に教えてくれて、多くの人たちに助けられました。そんなふうに手を差し伸べてくれるのは、やっぱり金沢ならではなんじゃないかと思いますね。

今後の展望は?

この店は、僕ら二人とお店で出会う人達の夢や目標の通過点だと考えているので、きっと移り変わっていくでしょう。僕は、和食の道を一筋にいっそう突き詰めていきたいですが、40代に向けて、今とは違ったことをやってみたい。ゆくゆくは、生まれ育った東山にお店を構えて、本格的な懐石料理を提供するのが大きな夢であり目標なんです。

というのも、あまり知られていませんが、東山という街は高齢化が進んでいるうえ、住民たちが日常に利用できる商店がどんどん少なくなっているんです。そのため、なかなか買い物に行けない人も少なからずいて、近隣の人たちが何かのついでに買ってきてあげるなど、助け合いで成り立っているという悩みも抱えていて。街はそれだといけないし、お店というのは、もっと地域に根付いたものになっていかないと。だから、僕も和食料理店というカタチを通して、何か街づくりのお手伝いをしたいし、地元に貢献していきたいですね。

現在、『PLAT HOME』に来ていただいているお客様の層は、30代から50代の方が中心。いつか別の場所に店を移すことがあっても、ご贔屓にしてくださる今のお客様のために、これまでと違った、新たな楽しみ方を提案していければ嬉しいですね。『PLAT HOME』はあくまでもひとつのステップなのだから、お客様といっしょにお店が育っていく、というのもいいんじゃないかな。

編集:きど たまよ  撮影:吉尾 大輔