はたらこう課

Interview

リレーインタビュー

街づくりの根幹に関わる仕事で
大好きな金沢をもっと面白くしたい。

# 3

松本 有未

YUUMI MATSUMOTO

不動産仲介業者

ことのは不動産

Profile

1982年、石川県羽咋市生まれ。2004年、金沢大学卒業後、(株)金沢倶楽部入社。金沢卯辰山工芸工房臨時職員を経て、’09年、有限会社E.N.N.(金沢R不動産)で不動産業に従事。’14年、『ことのは不動産』を設立。フリーライターとしても活動している。

不動産業界の道で起業したきっかけは?

幼い頃から住宅のチラシを眺めるのが好きで、間取り図から、実際に暮らしたらどんな感じだろうって想像を巡らせたり、自分でも間取りを考えたりしていましたね。大人になってからは大の引っ越し好きに。一軒家やマンションなど10年間で8、9回はしたかな。

出版社に勤めていた頃、立ち上げ準備中の『金沢R不動産』を取材したことがあって、そのコンセプトやコンテンツの面白さに大いに刺激を受け、自分でもインテリアコーディネーターの資格を取得したほど。そんな折、スタッフ募集を知り、不動産業界の経験はなかったけど、思い切って応募してみたんです。入社してしばらくはひたすら物件紹介のブログを書くことが仕事でした。

「この物件がこんなふうに生まれ変わったらいいな」という感じで、自分が思うまま書き綴っていたところ、共感してくれた方から問い合わせをもらったり、お客様とともにカタチにしていったりすることに大きなやりがいを感じ、いつしか不動産業界にどっぷりに(笑)

独立起業にいたる大きなきっかけがあったわけじゃないんです。たまたま私の周りには、お店を経営している人や作家、建築士とか、ひとりで仕事している人が多かったからか、だんだんと起業は特別なことじゃなくなっていたんですね。30代に入ったあたりから、私もそういうふうに生きたいなと強く思うようになって、自分がひとりでやれることを考えたら、やっぱり不動産だと。ならば、助けてくれる人が周りにいる今しかない! と動き始めました。

事務所は、小さくても、古くてもいいから、自分で直せるところを探しました。縁あって、元はんこ屋さんの建物を借りられ、少し手直しして古道具屋で家具を購入したり、廃校になった母校から譲り受けた棚を持ち込んだりして準備しました。元々顧客を持っていたわけでもなかったし、まっさらの状態からのスタートでした。それでも、ありがたいことに、開業からこれまで、お客様や知人の紹介というような“人のつながり”だけで仕事をいただいて成り立っているようなもの。中には、通りがかりにうちのお店を見て、「ここなら私の思いを叶えてくれそう」と訪れてくれる人も。不動産屋らしからぬ店構えのおかげなのか、住まい探しのご相談にいらっしゃる、女性ひとりのお客様が結構多いんですよ。

ライターの仕事も兼務されています。

一見まったく違う世界ですが、私の中では不動産屋と雑誌づくりを違和感なく取り組めています。なぜなら、不動産は土地や建物を持っていて貸したい人と探している人を結び付け、編集作業は情報を発信する人と知りたい人を結び付ける、いわば仲介業、とても似ているからです。面白いものを追い求めて、それが相手に共感してもらえる、そんな”つなげる”仕事で意味を見出していきたいと思っています。

でも、悩んだ時期もありました。モノを生み出す力を持つ職人や設計士、料理人といった人たちが、それを求めている人と直接つながれば、あるいは直に情報を発信すれば、私みたいな仲介という仕事など意味がないんじゃないかって。もやもやとしていましたが、「あなたがいなかったらこんないい物件には出合えてなかったのよ」と言っていただいたことがあって、自分の仕事に自信が持てるようになりました。今はこの立場でどう自分の存在意義を発揮していくかということを考えています。

金沢の街や人についてどう思いますか?

「地元を出たくないな」という気持ちは昔から抱いていました。一方、私の弟や妹は「東京に行きたい」とよく言っていて、都会への憧れがものすごく強かった。周りにそういう人が大勢いるほどに、「きっと、金沢の地がもっと面白くなっていけば、みんな出ていかなくなるんじゃないか」と考えるようになりましたね。実は、編集も不動産も、どちらも金沢を面白くしたいとの思いで就いた仕事なんです。

金沢の人って、排他的と言われがちなんですが、新しいものや、変わったものをすぐに試してみるという一面も持っているんですよね。自分の住んでいる街に誇りを持っているからこそ、「金沢のことを好き」とおっしゃる外から来た方には心を開き、受け入れてくれて、あれこれと世話を焼いてくれるところもある。そんなところが私は好きなんです。

それに、都会と違って、金沢は小さな街。だから、自分の知り合いの知り合いが知り合いだったということは珍しくない。それが嫌だという方もいるかもしれませんが、私には心地よくて。世間が狭いおかげで面白い人にすぐに繋がれるし、仕事をしていても色んな人と話ができる。それは何よりの魅力ですからね。

これから起業家になる方へのアドバイスを。

起業してわずか2年なので、まだまだアドバイスできる立場じゃないんですが、言えることは「なんとかなる!」という気持ちでしょうか。大切なのは、最初の一歩目。確かにとても重くてなかなか踏み出せないんですけど、とにかく踏み出してみれば、次の一歩を出さざるを得なくなるでしょ(笑)。

それから、同業者であるなしに関係なく、色んな人に相談して、話を聞いてみることかな。特に、自分とはまったく違う業界の人に会うことは、とても勉強になります。自分では広い視野を持っているつもりでも、いざ他業界の方の話を聞いてみると、自分の考えが凝り固まっていたと気づかされることがままあるからです。

今後の展望は?

これからも金沢に根付き、不動産を軸にしつつ、プラスαのことをやっていければいいですね。日本人における住まいは、35年のローンを組んで家を建てて、そこにずっと住み続けるというのが大多数の幸せとされています。でも実はそうじゃない幸せだってたくさんある。その人によって、色んなカタチに合わせた不動産を探していきたいと思っています。

海外では、家族構成の変化や事情に合った家に住み替えていくスタイルをとるのが当たり前となっていて、中古物件が盛んに流通しています。だけど日本では、新築物件の価値がマックス、時が経つにつれ、どんどん価値が下がっていくため、思った価格では売れない。古いものの価値がきちんと認められて、適正価格で売れれば、これからの住まいの選択肢はぐっと広がるし、もっと住まい方や生き方が自由になっていくのではと考えています。

だから、中古物件の査定にはとりわけ気を遣っています。例えば、昭和初期の建物の価値はゼロ、土地の値段で価格が決まるというのが従来の査定方法ですが、古くても修繕状態次第で価値を引き出せるよう、金額を見ることにしています。その価値をちゃんと理解して買っていただける人にうまくつなげていければいいのでは、と。不動産流通の状況をすぐに変えることは難しいけど、そういった事例を地道に重ねていくしかない。その蓄積が、わずかでも中古物件の価値が認められる業界に変わっていけば嬉しいですね。微力ながら頑張っていきます!

編集:きど たまよ  撮影:黒川 博司