はたらこう課

Interview

リレーインタビュー

販売業で培った人脈と経験を頼りに独立開業。
心地よく美しいランジェリーの魅力を伝える。

# 26

山内 麻衣

MAI YAMAUCHI

アパレル店経営者

TEDDY

Profile

1989年生まれ、金沢市出身。短大中退後、雑貨店で勤めた後、セレクトショップの販売担当を4年間経験。子供服のお店に移り、販売の傍らハンドメイドアクセサリー制作にも携わり、4年半勤務。半年の準備期間を経て、2018年9月、金沢の中心街、香林坊せせらぎ通り沿いに「TEDDY(テディ)」をオープン。インポートランジェリーを中心に、オリジナルウェア、アクセサリーも展開し、口コミやSNSで人気が広まっている。

起業までのいきさつは?

ランジェリーショップに働いていたことがあるわけじゃないんですが、雑貨屋、セレクトショップ、子供服の店の3店舗で、販売の仕事を10年ほど経験しました。子供服店では、アクセサリー制作も手がけて店内で販売していました。

仕事において一番影響を受けたのはセレクトショップです。20代前半までは自分で洋服店を開きたいと思い、その夢のために学べそうなお店だと考えて働かせてもらいました。そこは海外の洋服や古着、雑貨をミックスしたお店で、カフェも併設されていて、私の憧れのお店でもあったんです。私は女性向けの服の販売を担当していました。でも、働いていく中で個人経営の難しさを肌で感じ、ただ好きだけじゃ難しいものなんだ、とわかって、結局は雇われて働くのがいいのかなと、いつしか独立開業の気持ちは消えていきました。

その後、知り合いが子供服の店をオープンするからと声を掛けていただき、働き始めることになったんですが、その仕事が思いのほか楽しくて、大きなやりがいも感じられ、気が付けば4年半も経っていました。そうは言っても、私は結婚も経験していなければ子供も産んでいない。どこまでいっても子供服を扱う醍醐味を味わえていないんじゃないか、という思いが頭をもたげてきて、今の私が伝えたいものはもっと別のものだと感じるようになりました。

三十代が近づくと、同世代の友人知人がどんどん結婚・出産を迎えて、思うように働けないもどかしさを目の当たりにするようになったんです。私もいずれは結婚も出産もするかもしれないし、この先、自分の人生をどうしていきたいかをあらためて考えてみると、自分のしたかったことができない人生なんてどれだけ寂しいことか、と思い至りました。だったら、ずっと楽しみながら働ける場所をつくろう! と、起業する気持ちが再び湧いてきました。

とはいえ、自分がこれまで働いてきた3店舗で扱ってきたものは、レディス、メンズ、キッズの洋服、古着、雑貨、アクセサリー、カフェ。単に広くかじってきただけで、何か特定の物事において深く突き詰めるプロフェッショナルじゃなかった。その分、いろんな視点からその人のライフスタイルに合うものを提案できる強みとなりましたが、かといって知り合いがすでに店を営んでいる洋服店だと競合してしまう。せっかくなら、なかなか地方では手に取ることのできなかった商品の方が、もっと多くの人に喜んでもらえるのでは、とランジェリーに着目しました。

実はずっと前から、なぜファッションにマッチする下着がないんだろうという漠然とした思いがありました。ある日、はじめてインポートランジェリーを試着してみたときに、鏡を見てすごく胸がざわめきました。今まで身につけていたような、バストをメイクするデザインではなくて、ナチュラルなラインなんだけれど、そのランジェリーを身に纏うことで、なかなか好きになれない自分の身体がなんだか愛おしく思えたんです。それと同時に、今までの下着への価値観ってなんだったんだろう、と。この感動を他の多くの人にも知ってもらいたい、届けられたらと思うようになりました。

でもランジェリーだけで勝負するとなると需要がどれだけあるのか、売り上げが成り立つのかわからないので、自分の好きなものを融合させる今のお店のかたちに辿り着いたんです。宣伝はインスタグラムで情報を発信するだけで、お店を訪れてくれた女の子が写真を撮ってSNSなどで広めてくれるので有り難いです。

起業の準備などで大変だったことは?

自己資金がなかったので融資を受けようと考え、前職を辞める前から事業計画書を作成するなど準備をしていました。公庫の融資が通ったにもかかわらず、肝心の物件がなかなか見つからず、そのうち融資期限が切れてしまうことに。ランジェリーの店で頑張ろうと決意を固めたのに、なかなか思うように進まなかった。そんな時、物件探しに訪れた不動産会社で紹介してもらったのが、この「はたらこう課」のリレーインタビューでした。自分の周りにも起業している知人はたくさんいますが、表面的なことは聞けても、深いところはなかなか聞いていいのかわからないし、つい躊躇してしまうんです。でも、このインタビューには起業された方たちのリアルな言葉が綴られていて、とても参考になりました。人によって多様な考え方があり、今活躍されている起業家の方たちもこんな苦労を経験したんだと知って、心の焦りを落ち着かせることができました。

引き続き、物件を探している間に、銀行へも融資をお願いしに行きました。預金もないし、無職だし、経験のないランジェリーの店ということもあって、1、2ヶ月の間は毎週、需要や数字面とか起業に向けた宿題を出されて、とにかくしごかれましたね。ようやく銀行の融資も通ったところで、ちょうど今の場所の物件が見つかって、開店に向けて急に全てがうまく運び始めたんです。金沢市の起業家支援制度があるという情報も聞いて、申請手続きもしました。銀行でのプレゼンで鍛えられた分、起業チャレンジ若者支援事業の方はずっとスムーズに進みました。銀行からの融資があっても、奨励金などの助成を受けられるのは本当に助かります。

もう一つ苦労したのが、ブランド開拓です。ランジェリー業界において、ツテも知識もない私に、ECサイトを依頼した先輩が地元在住のランジェリーデザイナーがいると紹介してくれ、その方のブランドも取引させていただき、オープン前から知識面のサポートもしてくださいました。だからといって、まだ店舗も出来ていなければ、ホームページもない、何もない状況で取り合ってくれるブランドは当然ながら少なかった。それでもあらゆるブランドに体当たりして、お願いしました。海外ブランドのランジェリーは日本に代理店のあるブランドのほか、直接やりとりしているブランドもあります。

ランジェリーのお店って、外から見えないようなつくりになっていることがほとんど。だからうちは、あえてガラス張りのまま、オープンな雰囲気にしています。椅子やレジ台はロスで活動している日本人デザイナーに制作してもらいました。そのデザイナーの奥様の紹介で取り扱えることになった海外ブランドもあります。とにかく、オープン直前までちゃんとブランドが揃うかどうかハラハラしましたけど、なんとか間に合わせることができました。最初から完璧なお店に仕上げるよりも、徐々に年々良いお店になれるよう頑張っていこうというふうに考え方をシフトしていったんです。ランジェリーだけでなく、前職の同僚がパタンナーをしていることもあり、制作を依頼したオリジナルウェア、あと友人が手がけるアクセサリーも販売しています。そんなふうに人と人のつながりで助けられた部分はとても大きかったですね。

起業への不安はありませんでしたか?

やっぱり不安はありましたね。インポートデザインのランジェリーを、見たことのない方も含めてどれだけ受け入れてもらえるのか、全然わからなかったからです。それでも、わかり切ったことをやるよりも、やりたいものを選んで、お客様がしっくりくるもの、納得してもらえるものにいかに落とし込んでいけるかに力を注ぎました。何もしないで後悔するよりも失敗覚悟でやりたいことで行動すればいいと思うんですよね。それに、10年間の販売経験から得たことですが、楽しみながらやりたいことを提案していけばお客様がついてきてくれるという実感があるんです。いざ開店してみると意外と多くの人が受け入れてくれて、「新たな自分を発見できた」と喜びの声もたくさんいただいています。

ランジェリーの魅力とは?

ランジェリーは女性ならではの特別なものです。洋服と違って、その人の見た目の印象とその人が実際に好きなものが違いますし、自分の好きなものが自由に着られるものだと思っています。他の目線を意識せずに女性であることを純粋に楽しめるのです。華やかなデザインのものもありますが、ストレスがなく着心地のいいノンワイヤーのもの、レースで肌が痒くなる人には天然繊維にこだわったものなども、価格帯は5千円ぐらいから2万円ぐらいまで幅広く揃えています。ランジェリーは、人によって求めているものは違うし、女性にとっての一つの選択肢に入れてもらえるといいですね。その日の気分やライフスタイルに応じたランジェリーがあれば快適に過ごせますし、自分のお気に入りのランジェリーを身に着ければおのずと気分も上がります。ランジェリーってどうしても後回しにされがちな存在ですが、そういう良さをもっと伝えていきたい。ランジェリーを楽しむ女性がひとりでも多く増えていき、それによって女性がはつらつと過ごせたら嬉しいかぎりです。

金沢で起業する意義は?

お店は金沢に出すことが大前提でした。金沢の人は基本的には車で移動するので、行きたいところなら辺鄙な場所でも行くし、富山や福井の人も金沢に遊びに来るので、金沢はお店を構えるにはいい場所だと思っています。ただ、これまで働いてきたお店は郊外ばかりだったので、街なかに出店するのはチャレンジでした。

金沢は小旅行にぴったりのコンパクトな街だから、通りすがりに立ち寄ってくださる観光客の方も多いんです。中にはSNSやインターネットなどでリサーチして来られる方もいて、嬉しかったのが、金沢を訪ねる目的として、「兼六園、金沢21世紀美術館、TEDDY」を挙げて足を運んでくれたお客様がいたこと。最近ではお店を目当てで県外から足を運んでくれる方も増えて来たので、微力ですが地域に貢献できることが嬉しいです。あと、金沢は目新しいお店ができると一気に広まるのもいい点ですが、1、2年後にどこまでお客様がリピートしてくれ、新規客も取り込めるか、お店が残れるか残れないかは、その店次第となってくるんでしょうね。

これから起業する人へのアドバイスを。

私は元々やりたいことを今まで内に秘めて密かに実行するタイプだったんです。でも、声に出してみると、つなげてくれる人や助けてくれる人が見つかりました。店舗の場所はここでいいのか、自宅兼の店舗がいいのか、そもそもオンラインショップでもいいんじゃないのか、最初からリスクを負うのはどうなのかとか、店づくりについてあれこれ考えて迷っていた時期、ある人が「物事をプラスで見たり考えたりするばかりじゃなく、今ある状況や身の丈を理解して引き算して考えることも大切だよ」と猪突猛進する私にストップをかけてくれたんですが、その時は納得できなかった。でもある時、その言葉が妙にしっくりきて…。焦らずにやりたいことにひたすら向かっていたら、いい流れが一気に来ることがあるものです。私は半年もの間、悶々として焦っていましたけど、不思議なことに同時期にブランドも物件も見つけることができましたから。

今後の展望は?

まだオープンしたばかりで手探り状態なのですが、今後やりたいことはまだまだいっぱいあります!

まずは、ノンワイヤーのブラジャーやインポートランジェリーの魅力をもっと多くの方に知っていただきたいし、お客様と一緒にその良さを共感したり、新しい発見をしたりしていきたいと思っています。当初は、同世代をターゲットとしたファッション要素の強いランジェリーを多く展開していきたいと思っていましたが、お店を構えてみると産後のママやワイヤーブラが苦しいという方といった、様々な年代の身体のお悩みをもつ方が多くいらっしゃることに気付きました。これからもっと女性の身体にも寄り添ったお店にもなれるようにしていきたいと考えています。

それから、私はランジェリーに限らず、雑貨や洋服も好きですし、例えば、花器や器といった作家の作品など、自分がいいなと思えるものを今後さらに提案していきたいです。そういう意味では、今はランジェリーですが、年数を重ねるにつれ、もしかしたらメイン商品は変わっていくかもしれません。でも、それが何であれ、自分の好きなものをおすすめできること、そしてそれをお客様に共感してもらえることは、自分のお店を持つ醍醐味でもあり、夢のある仕事だと思っています。

編集:きど たまよ  撮影:黒川 博司