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2021.04/15 起業家紹介

起業家紹介vol.7 gelateria RITORTA

交流の場としての「ジェラテリア」を、街につくりたい。

gelateria RITORTA
今川絵里子

プロフィール
1984年金沢市出身。北陸学院短期大学食物栄養課卒業。卒業後、栄養士として就職。イタリア旅行をきっかけに、イタリア語の勉強を始める。24歳のときに1年間イタリアに留学し、ジェラートの魅力に出会う。帰国後は広告代理店やイベント会社で働き資金を貯め、東京のジェラート店で2年間の修行を経て、2019年11月に金沢市・せせらぎ通りにて「gelateria RITORTA」をオープン。

一言も話せなかったイタリア旅行

もともと料理やお菓子を作るのが好きで、栄養士の資格が取れる県内の短大に進みました。卒業後栄養士として就職しますが、施設の調理室でひたすら調理をするという仕事に面白みを感じられず、また自分が未熟だったこともあり、一年経たずに辞めることになります。

離職中に「次に就職したら、今度はいつ行けるかわからないから」と、母が私をイタリア旅行に誘ってくれたんです。せっかくなら現地の人と喋りたいと、出発までの数週間の間でイタリア語教室に通いました。先生は挨拶程度に話せるフレーズをいくつも教えてくださって。
でも結局、イタリアでは恥ずかしくて一言も話かけられなかったんですよね。旅行中もそのことがずっと引っかかっていて、ものすごく悔しかった。たぶんそこには「自分が自信を持ってできないこと」へのコンプレックスのようなものがあったのだと思います。帰国後「ちゃんと勉強して、もう一回イタリアに行きたい」と決心し、働いて資金を貯めながら4年間イタリア語を勉強し、24歳でイタリア留学に渡ります。

「ジェラテリア」という存在

イタリアには、日本でいうところのコンビニエンスストアくらいに、ジェラート屋さんが沢山あるんですよね。学校帰りにふらっと立ち寄れる、すごく身近な存在。そして人々が交流する場でもあり、イタリアで初めてできた友人も「今日ジェラート屋さんに行かない?」と誘ってくれたことがきっかけで仲良くなったんです。その子が好きだった「アマレーナ」というイタリア定番のフレバーは、今も店の看板メニューとして入れているほど。留学生活の中でも、ジェラテリアは私にとってとても思い入れのある場所でした。

日本に戻ってからは「せっかくイタリアに住んだのだから、イタリアに関わる仕事がしたい」と働き口を探しますが、金沢では中々見つからず。イタリア料理店で働いてみたり、再び栄養士をやってみたりしたのですが、しっくりこない。そんな悶々とした日々を過ごしていたある日「あぁ、ジェラートを食べにいきたい」とふと思い立ったんです。
でも意識していざ探してみると、自分の行動範囲内にふらっと行けるジェラート屋さんがなかったんですね。その時に「だったら自分でつくったらいいんじゃないか?」と思ったんです。イタリアで私が感じた、あの「ジェラテリア」の空気感を金沢で再現できたなら。そして、それを目標にしたら、「今」を頑張れるんじゃないかって。

あの小道が繋がって、今がある

そこから「まずはお金を貯めよう」と広告代理店やイベント企画会社で働いて、31歳になる頃にはある程度の自己資金を貯めることができました。同時に、30歳という節目を超えたこともあり「夢を語るだけじゃなくて、そろそろ現実的なアクションを起こさなくては」と焦り初めていた時期でもあります。けれど、何から初めていいのかわからない。手始めに検索エンジンで「ジェラート屋さん/始めるには」みたいな、バカみたいな文章打って(笑)。そしたら、後に私の師匠となる、阿佐ヶ谷にあるジェラート屋さんの店主のブログにヒットしたんです。

師匠もイタリアでジェラートに出会って、異業種から独学でジェラート屋を始めたという方でした。「この人なら、私の想いを聞いてもらえるかもしれない」と直感的に思って、アポをとって東京に会いに行ったんです。その半年後、お店のスタッフに欠員がでたということで「本気でジェラートをやりたいのであれば、うちで働いてみませんか?」とメールをくださって。
もう心は決まっていたので、仕事も全部辞めて東京に行きました。そこから2年間、お店で働きながらジェラート製造について学ばせていただきます。そして様々なご縁の中で今の物件に巡り会い、2019年、34歳のときに「せせらぎ通り」にて「gelateria RITORTA」をオープンします。
店名になっている「RITORTA(リトルタ)」とは、イタリア留学中に私が住んでいた通りの名前なんです。すごく細くて入り組んだ道なんですけど、旧市街地にあって石畳で雰囲気があって。学校に行くにも、それこそジェラート屋さんに行く時にも、毎日この道を通っていました。その小道がずっと繋がって、今があるというか。ちょっと照れくさいのですが、そんな想いから名付けてます。

ジェラートが溶けるまでの束の間

店内にはイートインスペースを設けています。それはイタリアや東京の修行先で見た、ジェラートを介して何気なく人々が交流する風景が私自身好きだったから。仕事帰りや週末にいらして「おいしいものを食べながら、ちょっと喋られる場所があってよかった」と、お客様がおしゃってくださったことがあったんですが、それがとても嬉しかったんです。
ジェラート屋って、コーヒー屋さんやカフェともまた違って、提供までの時間も滞在時間もすごく短い。それこそ「アイスが溶けるまで」のほんの束の間です。でも、そういう気軽な関係だからこそ話せることもあるんじゃないかなと。「今日は疲れたから、あの店に寄って帰ろう」と思い出していただいて、ジェラートを食べて、また元気になって日常に戻っていく。そんな場所でありたいと思っています。
そして何よりも、私自身がお客様との会話から元気をいただいています。今度仕込みのために少し長めのお休みをいただく予定なのですが、すでに寂しくて、1週間が限界だなと思っているところです(笑)。

「できるか/できないか」よりも
「やりたいか/やりたくないか」

皆さんおっしゃることではありますけれど、「起業」って何から始めたらいいのか、私も当初全く分からなくて。手始めに起業についての本を一冊買ってみたりしたけれど全然頭に入ってこない。だからと言って「起業家」とよばれる方達の集まりに参加するのは気後れして。
それでも、「やりたい」と強く願い続けてさえいれば、自分が思ってもみない形やタイミングで “波” がやってきたりする。だから「できるか/できないか」よりも「やりたいか/やりたくないか」が、起業においては大切なんじゃないかと思っています。

唯一、起業に向けて私がやったことといえば、「ジェラート屋さんをやりたい」と思った当初に「事業計画」をつくったということ。それは誰に見せるためでもない、言うなれば「自分に向けたプレゼン資料」です。もちろん、その時点では何一つ具体的なことは決まっていないわけですが「こんな場所で」「こんな雰囲気で」と、自分の理想を書き出していきました。
それによって、自分自身の頭の中が整理されていって、より「やりたい」という気持ちも強くなるし、反対にできない部分も明確になって現実味を帯びてくる。具体的に融資を受ける際に提出した資料も、このときの事業計画がベースになっています。今でも時折この事業計画を見返しては、初心に戻っています。
今振り返ってみても、私の起業は全く計画的なものではありませんでした。けれどそんな自分でも、これから起業を考えておられる方々のお役に立てることがもしあるとするなら、ぜひ力になりたいと思っています。
私が師匠のブログを読んで「この人なら話せそう」と思ったように、この記事を読んで下さった方にもそう思っていただける方がいたら嬉しいです。これまで本当にたくさんの人に支えられて、背中を押してもらって今があります。直接は返すことができないこの恩を、今度は私が誰かの背中を押すことで返していけたらと思っています。

(取材:2021年2月 編集:柳田和佳奈)

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