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2022.12/09 起業家紹介

起業家紹介_vol.15 吉崎努

ローカルを愛する気持ちが、強みになる

MiKS 吉崎努

1994年、金沢生まれ、あだ名は「ざっけろーに」。
新潟大学都市計画研究室で建築デザイン・都市計画を学んだ後、帰郷し、金沢の企業に就職。
店舗設計を中心に、サインやディスプレイなど商業空間のデザインに実践的かつ包括的に携わる。並行して個人デザイン事務所 "zakkerooni design"を設立。2022年春に独立し、金沢を拠点にホテルや街づくりを運営する「Linnas Design Inc.」と協働で「MiKS inc.」を立ち上げ、クリエイティブの領域を広げる。

「匠」に憧れ建築士を志した学生時代から、興味の対象は街づくりに

小学生の頃にテレビ番組「大改造!!劇的ビフォーアフター」が流行っていて、「建築ってかっこいいなあ」って感動して、それで「匠」に憧れたんです。中学卒業後は兄が通っていたこともあり、石川工業高等専門学校に進んで5年間建築を勉強しました。研究室では町屋研究を中心に都市計画やまちづくりを学び、担当教授から自身の出身校である新潟大学建築学科を薦められて進学することになりました。

金沢人のDNAなのか分かりませんが、金沢って古い建物が当たり前に残っている地域なので、それに対して「古い、かっこ悪い」といったネガティブなイメージは持っていなくて。所属していた研究室では金石、鶴来の町屋通りをよく訪れていました。町屋通りって、今で言うイオンモールみたいな感じなんですよね。商店がいっぱいあって、そこに行けばなんでも揃うという。なので街のなかにある建物一つひとつを「点」で見ても仕方がないというか、「面」や「線」で見ることで改めて気づくことがあると思ったんです。
大学を卒業して帰郷したのは2017年です。アルバイトやインターンシップで何社か建築設計事務所も経験しましたが、なんだか自分にはピンとこなくて。幅広く事業を展開するようなおもしろそうな会社がないかと、リクルーティングサイトで探していたときにたまたま見つけたのが、サインデザイン・施工、グラフィックデザインを中心として、インテリアデザインからプロモーションまで様々な事業を手掛ける前職の会社でした。

いろいろとありましたが、当時は「何者」かになりたくて、サイン・看板のデザインから内装設計まで、がむしゃらに働いた気がします。老舗や地元企業とお仕事をさせていただくなかで、自分の仕事を通じて街にたくさんの「点」を打っている感触や、街が「面」として賑わっていくことを実感することもあり、頑張れましたね。

人とのつながりが広がって

2018年頃から、会社員と並行して個人としての仕事も少しずつ受けるようになりました。きっかけは駅西本町のカフェ「GOOD4 LIFE 36 CAFE(サンロク)」です。地元の友人はほとんどが関東に就職し、大学卒業後に金沢に戻って来たときには知り合いがほとんどいない状態で。当時は自分にとってカフェに通う習慣はなかったのですが、とにかく人に会いたくて、勇気を振り絞って初めて訪れたのがサンロクでした。

サンロクへ通ううちに、オーナーや常連さんと友だちになったり、なぜかけん玉サークルに入ったりして。そしたらどんどん輪が広がっていって、オーナーの純さんから「お店の新しいロゴ、お願いできる?」って聞かれたんです。これが初めて個人として仕事をもらった経験です。

その後も、サンロクのつながりから「笠市町 Angolo café」「笠市町 je prends ça」「鱗町 pétale」などのお手伝いをさせていただき、そこからさらにつながりが広がってブランディングやクリエイティブデザインを任せていただいたりと、人とのつながりで声をかけてもらうことが増えていきました。会社に所属していると、どうしても「〇〇会社の吉崎です。」となってしまうので、「自分」という看板でお客さんとフラットに関われるのが単純に嬉しかったですね。

個人事業主から、「株式会社MiKS」設立へ

仕事とは別に、趣味で「Fenugreek CURRY」として間借りスパイスカレーを行っているのですが、あるとき「橋場町 HATCHi 金沢」に出店した際に、「LINNAS Kanazawa(リンナス カナザワ)」のオーナー・松下秋裕さんと出会いました。「サウナーなの!?貸切サウナあるから遊びにきてよ!」とお声がけいただいてからは、お互いサウナーなので話が早かったですね(笑)。去年の秋頃だったか、アキさんから「一緒に会社やらない?」と言われて、気がついたら「やります」と答えていた自分がいました。誘われたときに「やる!」と即答できたのは、自分のなかで、漠然とですが心の準備ができていたからなのかなって思います。
MiKSでは、金沢を拠点に「"The And Place" で出会うローカルクリエイターをはじめとする人々と混ざり合い、協働し、より良い価値を提供。そして、街ごとブランディングするようなクリエイティブチームを目指す」ことを信念としています。

会社員時代に感じていたもどかしさでもあるのですが、建築や内装設計って完成したものをクライアントに引き渡しておしまいというケースが多いんですよね。その後の運営や事業伴走といったところにはなかなか関わりづらいんです。もちろんMiKSではロゴやグラフィックといったディテールデザインも大切にしていますが、作ったロゴをどう使っていくかとか、一緒に作った商品やサービスをどのように展開していくかといったところまでご提案して、事業伴走することがより大切になると思っています。

そのためにも、ご相談いただいたクライアントが「どこを目指しているのか」をはじめにしっかりと探ることは重要です。それこそ、ロゴやパンフレットのような形で「点」として関わるよりも、プロジェクト全体に「面」として関わるように心がけています。これは、学生時代に学んできた街づくりの手法と同じようなものなのかもしれません。一番重要なのは、クライアントと一緒に作り上げた商品やサービスが自走できるようにすること。そのためにはデザインだけでなく、プロジェクトマネージャーやモチベーショナルスピーカーみたいな立ち回りも必要になってくるということです。少し恥ずかしいのですが、「いったん、僕に賭けてみてくれませんか」というぐらいの気持ちで頑張りたいですね(笑)。

この街や、周りの人たちに育てられてきたから

料金表のようなものはあえて作らないようにしています。例えば全然対価は支払えないのだけれど、ローカルに根ざして活動している僕らとして「この事業・人は応援したい!」「描く未来に共感する」みたいなことってあるんですよね。もちろん仕事なのでお金も大事だけど、貨幣価値だけにとらわれない世界もきっとあると思うんです。
サンロクもそうですが、僕は街に育ててもらったと思っているので、それに対して何か返すのは当たり前かなと。実はいまの髪型も、サンロクをきっかけに出会った美容室「hair UNITY」のロゴと名刺を作らせてもらった際に、「価値と価値で交換しましょう」と提案して、対価としてパーマをお願いしたんです(笑)。これって珍しいことでもなんでもなくて、「ご飯おごるから引っ越しの手伝いして」って言われた経験がある人って少なくないと思うんです。今すぐお金につながらなかったとしても、自分が関わることで事業が育っていったときに、正規の金額で取引をするみたいな。目先にとらわれずに、今のつながりを大切により関係を強く深くしていけば、おのずと未来につながっていくのだと思います。

元々、将来社長になりたいとか、独立志向を持っていたわけではありません。「なりたい自分は?」と聞かれても思い浮かばないのですが、本能的に「やりたくない」ということを避けてきただけかもしれません。 「やりたくないこと」を避け続けていれば、自然となりたかった自分になれるのかなって。

起業したいとかカフェをやりたいとか、漠然とした憧れを持っている人は、「具体的に何をするのか、しないのか」を考えることが第一歩かと思います。僕の場合は会社員時代に副業をすることで、個人事業主ならではのシビアさに対する免疫は少なからずついていました。いきなり起業をするのではなくて、まずは並行してやってみるとか、そのなかで具体的に何をするのかを考える機会を持ってみたら良いんじゃないかなと思います。

仕事をする上でのモチベーションは、自分の生まれ育った街に素敵なお店が増えて、街がもっと賑やかになったら純粋に嬉しい。それから人が好き、ただそれだけです。ローカルに根ざしてローカルを愛しながらやっていけば、それが強みになると信じてます。いつか「金沢といえば、ざっけろーにだよね」って言われるようになれたら嬉しいです。
編集:井上奈那

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