はたらこう課

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2024.04/12 Report

「はたらこう課」の8年間と、これから

「はたらこう課」の8年間と、これから

2016年春、金沢市の架空の部署として立ち上がった、はたらこう課。WEBメディアとして金沢で起業する魅力を広く発信し、市内で活躍する起業家やクリエイターの方々をご紹介すると同時に、学生向けのイベント開催や起業家同士がつながる場づくりなど幅広く活動を行ってきました。

2023年度で丸8年に渡った活動にいったん区切りをつけるにあたり、はたらこう課の運営に携わったディレクターの尾﨑友則さんと金沢市経済局産業政策課にインタビュー。はたらこう課のこれまでと、これからの起業家支援について語っていただきました。
語り手
尾﨑友則 はたらこう課ディレクター。香川県出身、2015年から2年半、デザイン事務所「ホッチキス金沢支社」に勤めるなかで、はたらこう課の立ち上げから関わる。現在はフリーランスとして活動する中、はたらこう課の運営に継続的に携わる。

多田翠 金沢市で起業支援等を担う産業政策課の職員。「はたらこう課」を担当している。

聞き手
井上奈那 はたらこう課ライター。新潟県出身、金沢在住8年目。新聞記者、雑誌編集者を経て2020年に独立。フリーランスのライター・編集者として活動している。はたらこう課では「はたらこう課ネットワーク」のインタビュー記事やイベントレポートなどを担当。

市井の人たちの仕事や働き方を通じて
街の雰囲気をリアルに伝える

井上 はたらこう課の事業が始まって丸8年が経ちました。一度、これまでを振り返ってみたいと思います。立ち上げからディレクターとして関わってみていかがでしたか?

尾﨑 まずはこの8年間、はたらこう課の運営に関わっていただいた方、リレーインタビューでご紹介させていただいた方、イベントなどにご参加いただいた方など、関わっていただいたすべての皆さんにお礼を申し上げたいです。また、金沢市の歴代のご担当者様にも継続的なご支援をいただきました。この場をお借りして感謝申し上げます。

インタビューを通じて起業家のみなさんの働き方や生き方を知るなかで、一人ひとりが自身のスタイルを持って、また自分のライフスタイルに合わせて働いている姿は、とても人間味があって魅力的だと感じました。

井上 北陸新幹線開業から一年が経った2016年に、はたらこう課はスタートしました。そういえば、私が東京から金沢へ移住したのも同じ時期です!首都圏と金沢の距離が一気に縮まり、全国的に北陸への注目が高まっていましたね。

尾﨑 そうですね。首都圏の企業が北陸へ進出したり、首都圏と金沢で二拠点生活をしたり移住したりする機運が高まっているタイミングで、金沢市から起業・移住促進のお仕事をいただいたのがもともとのきっかけです。

金沢市への移住を検討している方や起業を考えている方に向けて、実際に金沢市で商いをしている人たちを紹介することで具体的なイメージを伝えたり一歩を踏み出す一助にしたいという狙いから、はたらこう課が始まりました。
井上 ひと口に「起業家支援」と言っても、WEBメディアの運営にとどまらず、イベントやセミナーの開催、学生向けの企画実施、起業家同士がつながる場作りなど幅広い企画を行ってきました。実際に起業家の方々をインタビューするなかで、みなさんからたくさん刺激をいただきました。尾﨑さんの印象に残っているのはどんなことでしょうか?

尾﨑 そうですね、僕にとっては全てが大切な企画でしたが、なかでも特に印象に残っているのは起業家のリレー紹介と子ども起業塾でしょうか。起業家リレー紹介は、金沢市で商いをしている事業者の方々を対象として、起業家から起業家へリレー形式でつないでいくインタビュー企画です。

起業家のみなさんには起業のきっかけや、金沢で起業することのメリットなどを素直に話していただきました。市や県などの補助金を利用して事業を始めた方や、ご自身の資金でスタートした方など起業のきっかけや始め方は様々で、まさに十人十色。起業のノウハウに関わらず、苦労したことや努力したこと、人と人とのつながりや助けてもらったことなどのお話を聞くこともでき、印象深かったです。
あるとき、これまでのインタビューを改めて読み返したときに、これは単なる起業・移住のための参考インタビューというよりも、金沢に暮らす人々の物語であると感じ、この企画の意義が明確になったように感じました。

インタビューは何かを成し遂げた方や、何かを教える立場の方が対象になることが一般的だと思いますが、街に暮らす一人ひとりに人生の物語があり、それらを丁寧に記事にすることがはたらこう課の大きな財産になっていたのです。また、一般の人たちの市井の話を聞くことにより、リアルな暮らしの様子や町の雰囲気も伝えることができたのではと思います。
井上 こども起業塾では、こどもたちが一所懸命考えたり目を輝かせながら頭や手を動かしたりしている姿が印象的でした。

尾﨑 こども起業塾は、はたらこう課を立ち上げて数年が経った時に、県外の方々だけでなく県内・市内の方向けに起業促進イベントができないかと思い企画したものです。子ども向けの起業促進イベントを実施するのは始めての試みだったので人が集まるか不安でしたが、いざ蓋を開けてみると十数名の意識の高い小学生たちが集まってくれました。

金沢はもともと、コンパクトなエリアに商人や職人などが多く集まっていた街なので、他の地域と比べて個人事業主や代々事業を続けてきた方が多くいます。参加された小学生のなかには親御さんの影響で「将来は自分も家業を継ぎたい」というような志を持っている子や、ご両親が意欲的にイベントに参加する機会を作っているような家庭もありました。

文化や伝統が根付き、小商をしている方も多く、子どもたちにとって身近に起業をしている人がいる。こういった背景を持つことが、こども起業塾がうまくいった理由の一つではと思います。

井上 はたらこう課のライターとして活動する一方で、読者としても記事を面白く読んでいました。行政の事業にしてはユニークだな、というのが率直な感想ですが、運営をするなかで行政との連携において課題に感じたことはありましたか?

尾﨑 金沢市の規模感だと新しい事業に挑戦しやすいし、トライした結果が見えやすいというのは良かったですし、特にはたらこう課の運営は自由度が高かったように感じます。一方で、金沢市の担当者と起業家のつながりが作りづらいという課題もありました。

これはシステム自体の問題ではあるのですが、やはり行政から委託された事業であっても、行政と事業者、それから市内の起業家がひとつのチームになって一緒に盛り上げていかないと、起業や移住支援、コミュニティづくりにしても、成功させるのが難しい。特に市の担当者は異動があるので、長期的に事業を育てていける人がなかなかおらず、行政と市民がつながって、継続的に何かを成し遂げるということが難しい場面がありました。例えば担当が変わったとしても一度携わったプロジェクトには最後まで責任を持ってコミットできる仕組みとか、課と課の垣根を取り払ったコミュニティづくり、連携というのも必要なのではと思います。
他の自治体の事例などを見ていると、上手くいっているケースというのは行政と事業者がしっかりとタッグを組み、強いつながりを作ることで起業家や市民の人たちをどんどん巻き込んでいくことができる事例が多いと思います。そのようなつながりを築くということに難しさを感じていましたが、言い換えてみれば、これができればどんな事業や取り組みであっても上手くいくような気がします。

井上 今後、はたらこう課は主要コンテンツであるリレー起業家紹介が一旦終了し、運営事業者も変わることが決まっています。WEBサイトを生かしたまま新たに企画を続けていくそうですが、はたらこう課や起業家支援を今後も続けていく上で大切なことは何でしょうか。

尾﨑 この8年間で築き上げてきたものを大切に、これからも固定概念を取り払って、さまざまな可能性に対するリーチを続けていくことだと思います。44名のリレーインタビュー記事やはたらこう課の事業を継続するなかで新しいことにチャレンジしてきたという事実は大切な財産ですし、また、他の事業につながる種をたくさん作ることができました。

金沢市にはすでに移住や起業をしている方がたくさんいますし、これらの人脈を生かしながら、もっと幅広い層にアプローチして、ネットワークやコミュニティづくりを行ったり、迷っている人が一歩を踏み出せるような仕組みができたらいいのではと思います。

未来を見据えて10年目標を制定、
若い世代や女性への支援を充実させる

井上 金沢市では新たに都市像を策定しました。はたらこう課の事業を進めてきた金沢市経済局産業政策課の多田さんに、これからの移住や起業支援についてお聞きしたいと思います。はたらこう課はこれまでになかった新たな取り組みだったと思いますが、これまでを振り返っていかがでしたか?

多田 当初から続けてきたリレーインタビューは、金沢市内のさまざまな業種・働き方の起業家のみなさんを紹介することで、コミュニティの形成につながったように感じています。また、学生を対象とした「はたらこう課 INTERNSHIP」や小学生に参加を募った「こども起業塾 KANAZAWA」など、起業家の方々にご協力いただきながら実施した事業も非常に印象深いです。

井上 設計事務所や飲食店で活躍する起業家のもとインターンシップに参加した学生たちは、報告会でこれからの目標や夢について熱く語ってくれましたね。また、こども起業塾は参加した小学生はもちろん、親御さんにも好評だったようです。金沢市では2024年度から新たに都市像を策定したということですが、これはどんなものですか?

多田 長い歴史を持ち独自の発展を遂げてきた金沢市が、新たな高みへと飛躍するため、市政を取り巻く環境の変化を踏まえて20年、30年先の将来を見据え、おおむね10年後を目標とする新たなまちづくりの指針です。

井上 ・・・ちょっと難しそうです(笑)。具体的にはどういった内容なのでしょう。

多田 金沢の文化を基軸に、多様な人々の視点や活力を取り込むことで、新たなまちづくりの文化へと昇華させ、心豊かで活力ある未来の金沢をすべての人々とともに創り上げていくこととしています。そのために掲げた5つの基本方針がこちらです!

①世界に誇る伝統と創造の文化が息づくまち ~魅力づくり~
②多様な人々が共生し、心豊かに暮らせるまち ~暮らしづくり~
③共に学び、未来を創る人を育むまち ~人づくり~
④創造・変革により成長するまち ~仕事づくり~
⑤活力と個性があふれ、安全で持続可能なまち ~都市づくり~
井上 魅力づくり、暮らしづくり、人づくり、仕事づくり、都市づくりの5つの柱で都市像を推進していくのですね。産業政策課ではこれまではたらこう課を通じて移住や起業支援を行ってきましたが、この点について、これまでと違うポイントはありますか?

多田 そうですね、これまでと違う点としては、起業などに挑戦する学生や若い世代、女性などへの支援の充実を図ります。具体的には次の2つに取り組んでいきます。

①起業家の輩出・成長を促進する体制の強化
若者や女性起業家のスタートアップや起業家間のネットワーク構築を支援し、起業家を支え応援する体制の充実を図ります。
②起業家育成プログラムの推進
高校生や小中学生向けの起業家育成プログラムの充実など、起業家精神の醸成を図ります。

井上 私自身が子育て世代ですが、私の周りには幼い子どもを育てながらフリーランスで活躍している女性も少なくありません。年齢や家族構成などに関わらず、起業や新たな一歩を踏み出したいと思っている方の背中を押すような支援になったらいいですね。子ども向けのプログラムも気になります!ちなみに、これから起業を検討している人が利用できる制度にはどういったものがあるのでしょうか。

多田 金沢市内で創業予定の方に向けた融資制度や出店間もない事業者に対する運転資金の支援制度があり、起業を考えている方に対する相談窓口も設けています。こういった制度を利用していただいて、若者や女性の起業家が増えることはもちろんですが、将来的に金沢をけん引する、新たな産業の創出につながるような起業家が増えることを期待しています!

井上 金沢市都市像では「多様な人々の視点や活力を取り込むことで、新たなまちづくりの文化へと昇華させ、心豊かで活力ある未来の金沢をすべての人々とともに創り上げていく」とのこと。はたらこう課で様々な起業家に話をお聞きして実感したことですが、一人ひとりが自分に合った働き方や生き方をしていること、スモールビジネスがたくさんあることこそが、豊かで魅力ある街につながるのだと思います。

インタビューをした起業家の中には好きなことをひたすら追求している人、特技を仕事にしている人、休まず仕事をしている人、遊びも仕事も同じくらい楽しんでいる人など一口に「起業家」と言っても多様な方々がいました。みなさん自分の特性やライフスタイルに合った働き方をしており、だからこそ生き生きとしているようにも感じました。尾﨑さんも話していましたが、金沢は他の地域と比べて個人事業主や代々事業を続けてきた方が多くいます。私は金沢に移住して丸8年が経ちますが、街を歩くたびに、個人経営の小さなお店がたくさんあって楽しいなあと思います。こういった起業家の先輩たちの姿を見て、また金沢市が実施する起業家育成プログラムなどを通じて、起業って面白そうとか自分も新たなことに挑戦してみたいと思う人が増え、ひいては金沢市がより豊かな街になっていく、そういう循環が生まれたら嬉しいですね。

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