はたらこう課

Interview

インタビュー

コーヒーとスパイスのある日常を提供する
長年の夢をパートナーと支え合って実現。

# 31

kakurezato

カクレザト

カフェ経営

Profile

京村 亮太/1986年、野々市市(旧野々市町)生まれ。東京・表参道にある結婚式場併設のカフェレストランに入社。接客を担当し、横浜の新店の立ち上げを経験しながら6年間勤務。退職後、青山のビストロでコーヒーを究め、バリスタを目指す。2016年に地元に戻り、金沢や小松のいくつかの飲食店の立ち上げにも関わり、渡米して飲食店やワイナリーなども巡るなど、食の知識と経験を積む。’21年2月に、棚田麻友美とともに、スペシャリティコーヒーとスパイス&ハーブの店「kakurezato(カクレザト)」を開業。’21年4月現在はグランドオープンに向けて準備中。

 

棚田 麻友美/1988年、岡山県生まれ。肌組織やスキンケアなどの知識を習得し、4年半美容部員を務めた後、食の道に転身。東京・表参道の結婚式場併設のカフェレストランに入社後、サービス担当のトップに。バリスタの仕事の魅力にはまり、知識や技術を高めたいと転職、代官山のカフェレストランでバリスタの腕を磨く。その後、金沢に移住し、市内の人気パティスリーで1年半接客と経営を学ぶ。小松市のカフェで店長を務めた後、オーストラリア・メルボルンにコーヒー修業へ。2021年2月、京村亮太をサポートしながら同店をオープンさせる。

起業までのいきさつは?

二人ともずっと東京で働いていました。最初に就職したのは表参道沿いの結婚式場に併設されたきれいなカフェレストランです。僕には働いている人もお客さんも、とにかく楽しそうでキラキラして見えて。ただ自分の直感だけを信じていきなり店に飛び込んでその場で雇ってもらいました。僕は昔から人見知りで人と話すのが得意じゃなかったんですが、そこで働き始めてからは、接客を通じて話をすることが楽しく思えるようになって、デスクワークじゃ得られない、かけがえのない経験でした。その店に彼女がサービス担当として入ってきて出会いました。

実は、元々コーヒーが好きじゃなくてインタスタントコーヒーぐらいしか飲んだことがなかったんですが、店のバリスタから影響を受けて、コーヒーの魅力に目覚めました。6年働いた後、青山においしいコーヒーを出すカフェがあって、その店に転職することに。マシンの使い方などを少しずつ学ばせてもらっていくうちに、いつしか自分の店をやってみたいとの思いが芽生えてきました。

いつかは地元に戻りたいと何となく思っていたんですが、きっかけは母の死です。家族は父と兄と僕の3人となり、兄も私も石川県を離れていたため父が一人になってしまいました。すぐに帰って来られない距離ではないけど、やっぱりお互い寂しかったこともあった。いずれは飲食店の独立開業を、と考えていたので、2016年に地元に戻ることにしました。さっそく土地や物件も探し始めましたが、新幹線開業の時期と重なり、ぴったりの物件が全然見つからなかった。ほとんど知り合いがいなくて不安だったこともありますし、お金の準備期間も必要だったこともあります。僕自身、根がビビリで思い切れなかったんです(笑)。そんな時に知り合いから市内で飲食店を始める話が来て、まずはその手伝いをすることに。1年半ぐらい働いた後、まだまだ飲食について視野を広げたくてアメリカに渡り、カフェやレストラン、ワイナリーを見て回りました。半年後に戻ってきたタイミングで、東京の知り合いから誘われ、小松市で東京の会社が運営する新しいカフェをシェフと僕の二人で立ち上げることになりました。

その頃まだ彼女は東京で働いていたんですが、そのうち金沢に移ってきて、パティスリー勤務の後、僕の働く店の姉妹店のカフェの店長に就いて働くことになりました。小松で働き始めた当初は何もわからない状態だったので、まずは土地や人のことを知らねばと思いました。地元のものは地元の方に聞くのが一番ですが、土地の人たちと親しくなって食材のことや扱い方を知り尽くせるまで5年もかかりました。だけど、そういう時期があったおかげでたくさんの出会いに恵まれて、今につながっています。(京村)

私は雪国に住むのは生まれて初めてのことで、特に冬、道路に融雪の水が出ていることにとても驚きました。石川県はあらゆる食材がおいしくて、今まで苦手で食べられなかったトマトやキュウリなどの野菜も、農家さんと出会ってから丸かじりして食べられるようになったんです。私の働いたカフェのメニューにも地域の方からお裾分けしていただいた野菜を使うこともありました。食材の使い方だけじゃなく、梅干しの作り方まで、近所のおじいちゃん、おばあちゃんに教えてもらって、忘れられない経験となりました。それでも、彼も私もお店を開業したくても叶わない、もどかしい状態がもう何年も続いていたので何とかせねばと思い、私も小松のカフェを辞めて、本格的にコーヒーを学ぶためにオーストラリアに行くことを決心しました。私が帰ってきたらすぐにオープンできるように準備しておいてね、と半ば強引に修業に出発しました。(棚田)

パートナーとして彼女に支えてもらっていることが大きくて、そんなふうに何かしらきっかけがないと動けなかったです。彼女の指令に応えるべく、カフェを辞めて本格的に物件を探し始めて間もなく、ひょんなことからいい物件に巡り合えました。小松にいた頃に知り合ったイベント会社の「ノエチカ」のスタッフの方に、金沢で物件を探していることを話すと、「事務所が3階に移転して1階のスペースが空くから見に来ませんか」と声をかけてくれました。立地も物件も申し分なく気に入ったので、内装屋と打ち合わせしながら契約の時期を待っていたんですが、コロナ禍の状況もあり、事務所移転が予定より時間がかかったので、その間にお金の工面など準備も進めました。開業資金には自己資金も当てながら、信用金庫からの融資も受けました。市役所にも相談に伺って、窓口の方に助成金の説明などとても親切に対応いただきました。事業計画書などの書類もざっくりと作成してみたのですが、まだ受けなくても大丈夫かなと思って申請しませんでした。

お店の宣伝をポスティングぐらいはした方がいいとも聞きましたが、SNSのインスタグラムの発信のみで、ショップカードすら未だにつくっていません。皆さんインスタグラムやグーグルマップを見て来られますし、特にインスタを熱心にチェックしてくれるお客様もいます。僕らはなかなか頻繁に投稿できていないんですが、お客様がアップしてくれた投稿がシェアされて、自然に広まってくれて。本当にありがたいものです。(京村)

お客様のインスタグラムの投稿では皆さんタグ付けしてくださっているので、毎日チェックして投稿していただいた皆さんに直接メッセージをお送りするようにしています。お店に来てくださったお客様の顔を思い浮かべながら投稿を拝見しています。(棚田)

東京にいた頃は1日何千人ものお客様と応対していたので、なかなかお客様一人ずつにちゃんとおもてなしができなかったし、そういう気持ちがあっても追い付かなかった。これぐらいの規模だと一人ひとりの顔を見ながら話せるのが嬉しいですね。来て下さるお客様のほとんどの方が話しかけてくださって、自分が思い込んでいた金沢の人のイメージとはずいぶん違いました。最近は常連のお客様の方が多い日も増えてきました。(京村)

お店づくりへのこだわりは?

以前から写真で見て気に入っていた北欧のお店があって、まちの人が行き交う様子が見えるお店を求めて探していたんですが、この築60年の建物を目にして、古き良きものを活かしたいという思いが湧きました。壁の色やあしらいひとつにも昔の職人が手がけたこだわりが感じられるので、間仕切りは取っ払ったものの、できるだけそのまま活かしながら居心地のいい空間をつくり出すように改装してもらいました。もちろん、お金がかけられなかったという理由もありますが(笑)。カウンターの一部に小松の滝ケ原石を使っているところもこだわりです。

外国のキッチンをイメージした装飾も取り入れました。アンティークの食器や鍋、はかり、泡だて器などは、現地で住んでいたお宅での昔のものを大切に受け継ぎながら料理に使っていた様子が素敵で、そういう古いものと新しいものを、バランスを見ながら織り交ぜました。コーヒーカップはオーストラリアの陶芸家につくって送ってもらっていて、オーダー販売にも対応しています。フードは基本的に私が担当していて、コーヒーを作ったり淹れたりするのは二人ともできますが、豆のチョイスやマシンなどの調整は彼に任せています。コーヒーに関しては二人が淹れるとそれぞれ味わいが違って、私のだけでは何か物足りない。彼の作ったエスプレッソと私の立てたミルクを合わせたラテが一番おいしいと私は思っていて、そんなふうに様々な面で補い合いながらやっています。(棚田)

起業で大変だったことは?

起業までの下準備の期間が長かったからでしょうね、もちろん細かい苦労はありましたけど、物件がなかなか見つからず、進まなかった状態が長く続いたこと以外は特にないです。すぐに開業できなかったことにしても、自分が考えるか考えないか、やるかやらないかの問題だったのかな、と今は思います。(京村)

二人ともサービスの仕事やコーヒーの世界しかやってこなかったので、フードのことがわからなくて決めかねていましたね。金沢に来てからは、どういうお店にするのか具体的に検討するために、私がパティスリーで働いてみて、どんなお客様が来られるのか、このまちの人たちはどんな感じのものが好きなのかなど動向や嗜好性を掴みながら、フードのことを深く考えていきました。その後に勤務した小松のカフェでは、二人で海と山とに分かれて働いていたおかげで、時間はかかりましたけど、どちらの食材のこともしっかり学べたのは意義がありました。(棚田)

金沢で起業する魅力は?

私は岡山出身で石川県に全くゆかりがなかったんですが、県民性は岡山と石川では対照的です。ヨーロッパで例えるなら、金沢はロンドン、雨が多くて男性も紳士でおしゃれで女性はしとやかです。岡山はナポリ、男女ともに社交的で活発なイメージがあります。あと金沢の方は最初はシャイなのかもしれませんけど、一旦慣れると結びつきが強くなって、お店のことを大切にしてくれる印象がありますね。(棚田)

僕は地元という慣れ親しんだ場所でやる強みやメリットが多いと感じます。開業してまだひと月しか経っていないからわかっていないのかもしれませんが、SNSを通じて知ってもらいやすいところもその一つで、商圏としてかなり規模が小さいからこそ、できることがもっとありそうな予感がしています。お店の場所の候補に小松も考えましたが、商売のことを考えたら、やっぱり人口も多く観光都市でもある金沢になりますね。オープンしてみると、金沢だけでなく小松や加賀からもお客様が来てくれましたし、石川県全体に知り合いが出来たことで、野菜を持って遊びに来てくれる人もいて、人とのつながりを感じるたび、これまでやってきてよかったなとつくづく思います。

それから、金沢にはコーヒー好きの方がびっくりするぐらい多いですね。コーヒー豆の消費率も全国トップクラスとのことですが、こんなにコーヒー豆が売れるとは思っていなくて。豆の販売の方が利益はやや少なくなりますが、たくさん売れるほど循環が良くなって、新鮮な豆をお客様に提供できるので嬉しい。その一方で、コロナが終息して観光客が来られるようになればこの店ももっと好影響を受けられると期待しています。実際、インスタグラムを見て来られた関東圏のお客様もいらっしゃいます。

これから起業する人へのアドバイスを。

まだ走り出して間もない僕らが語っていいのかわかりませんが、変なタイミングでスタートしたらよくないかな、と。ここぞというタイミングは必ずあるはずなので、いい流れに乗ればうまくいくのではと思います。といっても、僕らの場合は周りの人のおかげでしかないですけどね(笑)。失敗したらという不安は昔からずっとあります。今もなくはないですけど、そうなってしまってから考えればいいやと思えるようになりました。だから、こんなビビリの僕でもできますよ、と皆さんに伝えたい。僕の周りには腕がいいのにやらない人はたくさんいて、本当にもったいないと思うんです。もしお金の都合がつくのなら、思い切って飛び込んでと言いたい。税務署に開業届を出さなくても、まずは試しに始めてしまう感覚でいいんじゃないのかなと思います。(京村)

何年もの間ずっと、こんな店がいいねとか、金沢でこんなことができたらとか、二人でアイデアを練りながら語り合ってきました。ひとたび外に向かって口に出してみると、「探しているのならこういうのもあるよ」といった感じでいろんな情報が入ってくるようになりました。経験してみて、自分から発信していく大切さがわかりましたし、発信することによって何かしら引っ張る力が生まれてくるような気がしています。(棚田)

今後の展望は?

僕の勝手なおごりがあって、最初は「金沢でコーヒー文化をつくる」なんて偉そうなことを言っていたんですが、そういうことよりは、皆さんの日常の一部になればいいのかなと思うようになりました。いろんなところから来た人が互いに別々の席に座っていても、ふとしたきっかけで情報を交換し出して関わり合い出すような、人と人の出会いの場所になってほしいし、日常使いできる場所にもなってほしい。月並みですが皆さんに愛されるお店にしたいです。

でも、実はまだプレオープン中なんです(笑)。時期によって変動はするんですが、友人のところ5社から仕入れたコーヒーをメインに、スイーツやフードはスパイスをきかせたミートパイやカスタードパイ、週替わりのメニューなど、コーヒーに合うものを今は少しだけ出しています。お店の一角でコーヒー豆やスパイスなども販売しています。普通はプレオープンから1週間ぐらい経ったらグランドオープンするものなのに、もはやどうやったらグランドオープンできるのかわからなくなってきています(笑)。まだ納得するフードができていないのが一番の理由ですが、東京で一緒に働いていたスリランカ人のシェフと相談しながらメニューをつくり上げている最中です。もちろんコーヒー屋というスタンスは変わりません。僕も彼女もコーヒーがすごく好きだし、スパイスは元気をもたらしてくれて、身体にいいハーブも自分で育てたものを使いたい。自分の好きなものをメニューに取り入れたくて、スペシャリティコーヒーとスパイス&ハーブの店にしました。スパイスはそのスリランカ人の友達が東京で独立開業していて、そこから仕入れています。本国から届くスパイスは香りが全然違います。それを生活に取り入れたら日々の感覚も変わるだろうとワクワクします。グランドオープンの際には、扱うアイテムをもっと増やしていきたいですが、探り探りオープンしていければいいかな、と。(京村)

 

数種類のスパイスをブレンドしたチャイも好評です。私が美容部員として働いていたときには、新鮮なハーブやスパイスを取り入れたボディパックも扱っていたので馴染みがあって、それぞれ効能が違う点なども面白いと思います。オーストラリアで出会った量り売りのスパイスショップを経営している友達から、いろんな国の人が集まってそれぞれが料理を作り合うパーティーに招かれたことがありました。そこではインドやスリランカのカレーだけじゃない、アメリカン、フレンチ、イタリアンだって普段の料理にスパイスを使うことを知って感激しました。日本ではスパイスの使い方がわからない人が多いと思うので、料理にかけるだけで各国の本格的な味わいになるようなブレンドスパイスを用意したり、スパイスの種類も少しずつ増やしたりして、皆さんに広く知ってもらい、あれこれ試して楽しんでいただけたらと思います。

店名の「kakurezato」は、同じ名前の民話からインスピレーションを受けた彼が考えて名付けました。旅人が迷って隠れ里にたどり着き、そこで温かいおもてなしを受けて忘れられない場所となり、再び訪れても二度と見つけられないというストーリーです。私たちにもいろんな国の友達がいるし、東京にも岡山にも友達がいる。そういった人たちが道に迷いながらもここにたどり着いたら、私たちは最高のおもてなしをしたい、そんな思いが込められています。お店のロゴにも表現していますが、カウンター越しにお客様とコーヒーを飲みながら楽しく話せるような、何気ないけど穏やかで心和む日常を提供していくことが目標です。(棚田)

2021.4 編集:きどたまよ 撮影:黒川博司