はたらこう課

Interview

リレーインタビュー

飲食店や診療所などの中小企業に特化した
独自のコンサルティングで経営の成功へ導く。

# 8

村田 智

SATOSHI MURATA

経営コンサルタント

(株) MONK

Profile

1980年、金沢市生まれ。『JR東海』『イーピーエム・コーポレーション』『プルデンシャル生命保険』の勤務を経て、経営コンサルタント、医療経営士に。2014年、「CVCKビジネスプランアワード」審査員特別賞受賞。同年、『株式会社 MONK(モンク)』を開業。’16年より、金沢市役所ものづくり産業支援課所管「起業・経営」相談員、金沢文化服装学院教員も務める。

業務内容を教えてください。

主に中小企業向けの経営コンサルティングをしていますが、業務はざっと3つに分かれます。1つは、例えば、店舗の売り上げをアップさせるのは得意だが、数字が苦手とか、またはその逆といったように、経営者の足りないところを補完する“アウトソース”。もう1つは、社内に右腕的な立場が必要な場合、社員のかたちで関わる“ハンズオン”。3つ目は、1年に1度の決算や、社員を集めて経営計画や事業計画を練るといった“スポット”業務です。これまで、診療所、飲食業、デザイン事務所、宗教法人などのコンサルティングを手掛けてきました。大企業や大病院のコンサルティングは、部署が多く、まとめ上げることが非常に難しいものだとわかっているので、手を出さないと決めているんです。

ありがたいことに、知り合いやお客様からの紹介による仕事が中心です。コンサルティングとは無縁と思われがちな宗教法人も、檀家の一人である友人の紹介で携わりました。聞けば、最近は檀家さんがどんどん減り、昔は月参りに必ずお経を上げるといった、お寺と檀家との密接な交流が、今や葬式や三回忌といった行事ぐらいになってしまい、お布施だけでの運営が難しくなってしまったとのこと。そこで、収益面や資産、支出などの現状を調べて経営改善プランを提案しました。

また、飲食店の場合だと、月次決算書などで財務状況をみて、どの時期が強いか弱いか、今年度の目標数値があるかないかといったことを調査します。実際に、飲食店の皿洗い場に1日潜入して、現状を把握することもあります。厨房に入ってみることで、ホールスタッフの動きや厨房機器の配置などについて、店の人には意外と気づけない問題点を把握できます。どうして効率が悪いのか、アルバイトの人員の比率が適正かといったことを調査するんです。

医療経営士の資格を持っているので、診療所やクリニックのお客様も多いですね。例えば、半径1km圏内に2万人が住んでいる中に、同じ整形外科が3軒も4軒もあると、患者は分散してしまう。しかも優秀な先生がいる、サービスもいいクリニックが数軒ある。その場合には、他の整形外科の患者をすべて奪い取るぐらいの強い意気込みでプランを練り上げます。特に歯医者は、コンビニの数より多いほどの “戦国”です。開業に1億円もかかっても、患者を寝かせるユニット台の数次第で保険診療の売り上げのマックスがおのずと決まってしまう。それも患者の予約がしっかり入って、時間通りスムーズに治療しての話。たくさんの患者を集めても、きちんとしたオペレーションが確立されていないと、患者を寝かせたまま40分も1時間も待たせてしまう事態も。経営を成功させるためには、身なりやサービスなどへの高い意識はもちろんのこと、自院の経営数字をしっかり把握する必要があるんです。

また、カルテやレセプトの情報を元に、立地も踏まえた分布図をつくる「プロット」する作業を通して、商圏調査を綿密に行い、顧客数アップなどの提案をします。特に医療系は、国の管理下である健康保険のビジネスなので、医者側は儲けてはいけないんじゃないかという心理的な弱さを抱えてしまいがち。でも商売をするからには、一番大事な家族を守れなければ何にもならない。あくまでもビジネスですから。

起業のきっかけは?

きっかけは明るい話と暗い話の2つあります。明るい方は、会社員時代に「CVCK(クリエイティブベンチャーシティーカナザワ)ビジネスプランアワード」というコンテストで審査員特別賞をいただいたことです。元々このイベントが好きで、新しい時代の情報を勉強するために注目していたこともあって、僕も「クラウドで財務を見るソフト」のアイデアを出してみたんです。保険会社の社員からの応募が珍しかったのもあって受賞できたんでしょうね。受賞時に、審査員からの「起業するの?」という言葉に背中を押されるように、翌日にはもう会社に辞表を出してしまいました。

というのも、実は賞を頂く前から、会社を辞めるかどうか悩んでいたんです。その保険を売る仕事での決定的なきっかけが暗い方の話です。僕は、ある会社の専務を務める友人に保険の契約してもらっていたんですが、社長である親父さんが自殺したとの連絡をもらって。すぐに友人に会って話を聞いたら、借入金だらけで消費者金融からも融資を受けているほど、経営は火の車だったことがわかった。僕にできることは何かと思い、親父さんの保険について尋ねたんです。「自分のしたことは自分で責任をとる」という内容の遺書が見つかり、確認すると他社の保険が2件契約されていて、合わせると借入金相当額だった。でもそのうち1つは、2ヶ月以上保険料未納のため失効していたことがわかり、結局借入金が残ってしまう結果に。自分の契約じゃないからと言い訳しつつも、なぜ自分は親父さんの証券を一度見せてくれと言わなかったんだろう、確認だけでもさせてもらっていたら、状況は変わっていたんじゃないか。そんな深い後悔がつきまとい、セールスマンとして足が途端に動かなくなってしまったんです。

経営者は、“肉体的な死”だけじゃなく、“商売的な死”によっても人生そのものが終わってしまうということを痛感し、保険を売っているだけではダメだ、もっとその会社全体が見える人間にならないと、と一念発起。保険以外にも経理、財務、マーケティングなどに幅広い分野について猛勉強して起業しました。コンサルタントの道を選んだのは、これまでも色んな人から個人的に相談を受けることが多く、お手伝いとしてのアドバイスが喜んでもらえたこともあって、もちろんうまくいかないこともあったんですが、それが好きだったからです。

異業種からの起業で不安はありませんでしたか?

僕は、20歳から東京で鉄道の変電設備の設計・積算や現場監督の仕事をしていたんですが、周りのエリート社員たちには到底勝てないとドロップアウト。父親は相当がっかりしていましたね。帰郷後、アルバイトをしながら一人暮らしをして、暇があればスケボーで遊ぶ、フラフラした日々を過ごしていました。当然お金もなく、1日100円ぐらいの暮らし。時には、アメ車をバラして、部品を売って生計をつないだこともあった。そんな生活を2年ぐらい続けた頃、前の会社の同期が金沢に遊びに来ることに。カッコいいことを言って退職しただけに、さすがに気まずくて(笑)。これではまずいと思い、就職活動に動き始めました。クルマ好きだから、きっとディーラーの営業マンならいける、なんて根拠のない自信を持って、採用の募集もしていない何軒ものディーラーに電話をかけたけど、経験もないので会ってもらえず…。そんな中、外車ディーラーの当時副社長が「会うだけ会ってやる」と言ってくれ面接へ。接客のロープレの試験があり、たくさんの入社志望者の中から採用してもらえたんです。セールスの仕事をこつこつ続けて3年半経ち、スカウトを受けた保険会社へ。そこは完全報酬制なので、常に成果が求められる危機感がありましたね。その経験もあって、これまでずっとお金に困った、或いは精神的にも不安な状態を充分に味わってきたので、“失敗したらカッコ悪い”なんていう意識を持たずに起業できたんだと言えますね。

中小企業の経営者と関わる中で、自分もリスクをとらないと同じ立ち位置でいられないと考えています。会社の看板なり信頼なりがあり、何もかも揃っている人間から助言をもらうのと、苦労しながら少しずつ信用を獲得してきた人間からの助言をもらうのとでは、雲泥の差なんじゃないかと思うんです。

僕は起業するにあたり、保険会社勤務の時に手に入れた腕時計数点と乗っていた車を売って手に入れた100万円を資本金にしました。創業時に決めていたことは「無私自立」。社員を増やしたいのか、一人でやりたいのか、経営者のタイプは様々でしょう。その人がどこに幸せを感じるかを尊重せずに、我を出し過ぎるとそれは僕の会社や商売になってしまう。かといって、経営が間違った方向に暴走しようとする時には、たとえ顧問契約を切られたって止めないといけない。いつもそういう覚悟と気構えで仕事をしています。

これから起業する人へアドバイスを。

「やるのは簡単だけど、続けるのは難しい」ということです。僕だって、数年後にはまたバイトしながら食べているかもしれない(笑)。でも失敗したって、いざとなれば飲食店でもどこでも働いていけるので、僕にとっては苦じゃない。お金のない生活はこれまで散々経験してきたのだから。昔と違って高級なクルマや時計は、働くモチベーションにはならない自分に気づきました。今の僕のモチベーションは、クライアントの中小企業の社長とずっと付き合っていきたいし、いっしょに成功して、互いにとって理想の人生を送りたいということにあるんです。

今後の展望は?

現在の収益源である仕事のクライアントは、いずれも起業されて何年も経ってある程度安定している会社ばかり、明日お金がないという会社ではないんです。金沢市の委託で、起業・経営の相談業務に携わるようになって思うのは、起業したてのスタートアップにこそ、僕みたいな立場の知恵が、活きるのではないかということです。起業したてのお金がなくて困っている経営者に対して、どういったかたちになるかわかりませんが、後々そのコンサルフィーを返済してもらえるような、スタートアップ向けの仕組みを作りたいと考えています。

編集:きど たまよ  撮影:黒川 博司