はたらこう課

Interview

リレーインタビュー

季節ごとの花々が彩る自然美を
豊かな感性と確かな手仕事で表現する。

# 10

宮 久美子

KUMIKO MIYA

フローリスト

Rebelle fleur

Profile

1983年、金沢市生まれ。金沢市内のフラワーショップでの10年間の勤務を通して経験を積む。2013年4月、北安江に『Rebelle fleur(ルベル フルール)』をオープン。生花とドライフラワーのみにこだわり、花束、フラワーアレンジメントのほか、店舗のディスプレイやブライダルのブーケや装花などを手がける。また、月2回、テーマや内容を変えながら、フラワーレッスンも定期開催している。

起業のきっかけは?

もともと特別「花屋になりたい」という夢や強い思いを持っていたわけではないんです。たまたま、ある花屋の採用募集を見て、なんとなくやってみようかなという気持ちで応募して、それ以来ずっと、花屋ひと筋です(笑)。花って、すごく力を感じるものなんですよ。何かをつくり出すことって正解がないもので、花の世界にもそれと同じような感覚を抱いています。いつまでも終わりがないから、今までいやにならずに続けてこられたのかなと思いますね。

花屋の仕事って、実は見た目とは裏腹で、肉体労働なんですよ。市場で仕入れるたくさんの花を一つひとつきれいにして、水に漬ける「水揚げ」をはじめ、毎日のお花の水替え、花瓶やバケツなどを綺麗に洗うなど、作業の中心は水仕事だし、重いものもたくさん運ばなくてはならないので、いつのまにか手荒れや腰痛を悪化させて、花の仕事が好きでやりたくても続けられずに辞めてしまう人も多いんです。私は、不思議なことに一度も手荒れになったことがなくて、丈夫な肌に生んでくれた親に本当に感謝しています(笑)。

花屋に勤めて6、7年経った頃に、将来のことを考えるようになったことが起業のきっかけです。この先ずっと今の花屋にいるのか、海外に勉強に出ようか、或いは他の店舗に移ろうか、それとも自分でやろうかと、いろんな選択肢から、起業する道を選びました。まず、花の仕入れルートを確保するため、市場との契約を結ぶことから動き出しました。それと同時に店舗の物件探しも行っていましたが、親や親戚が共同で内装会社を経営していて、その事務所の建物の一角を使ったらいい、と両親からアドバイスされ、そこを改装して店舗にすることにしました。家賃などの支払いは、建物を所有する会社に毎月収めています。開業資金は、自分の貯めた少しのお金と銀行からの少しの融資のみで、身の丈に合った小さなお店でやっていこうと思いました。

だから、宣伝広告も特にしなかったし、SNSで開店告知をしたぐらいで、お店はひっそりとオープンしたんです。大々的に宣伝をしたところで、自分ひとりの小さな店だし、かえってお客様に迷惑をかけてしまいますしね。前の花屋のお客様にも独立のことは告げずに辞めたので、顧客はゼロからのスタートです。最初は知り合いや友人たちが来てくれて、そのうち口コミで徐々にお客様が増えていき、うちの花の雰囲気を気に入ったお客様がブライダルの依頼もしてくれるなど、少しずつ仕事が広がっていきました。

そんなふうに、起業するにあたって、とりたてて問題も起こらず、スムーズに物事が運んでいったのはありがたいです。とはいえ、そもそも初めからお店がうまくいくなんて思っていなかったし、「失敗したらしたでいいや!」くらいの気持ちでスタートしたんですね。お店のハコの部分ばかりに力や資金を注ぐよりも、とにかく店を続けていくことを第一に考えて、ひたすら花と真剣に向き合うことに心を尽くそう、と。

商品やサービス提供へのモットーは?

フラワーアレンジや花束、お祝いの花のオーダーがメインですが、ブライダルや店舗ディスプレイの仕事も依頼があればお受けしています。特別の日のお花は、ともすれば派手でゴージャスなものになりがちなんですが、私は、一つひとつ個性がある、花そのものの良さを見てほしいので、あまり過度なラッピングや器、花のデザインにこだわるのではなく、あえて花のナチュラルな魅力を存分に引き出せるように心がけています。

初めてのお客様でしたら、贈る相手がどんな方なのか、どんな雰囲気がお好みなのかなど、ざっくり聞いて、そのお客様の雰囲気やその奥に見える何かを感じ取って、いうなれば“勘”なんですが、自分なりに考えながらおつくりしています。花屋って、今日からなろうと思えば誰だってなれる職業なんです。だけど、お客様にいかに喜んでもらい、いかにお店を継続していくかは、私の場合10年の間、花屋の世界で培ってきた知識や経験、磨いてきた感性というような、芯の部分が大切になってくると思っています。

金沢で起業することの意味は?

金沢以外でお店をやるとしたら海外で挑戦してみたいですが、住む場所としてはやっぱり金沢が好きだし、花屋を続けていくためにはここがいいと考えています。なぜかというと、金沢の街並みも人もみんな好きだから。ただ狭いぶん、とりわけ悪い噂は回るのか早いとか(笑)、少し抵抗あった部分もありましたけど、それも徐々に慣れてきました。

金沢は、いい意味でも悪い意味でも、いいものは残るし、だめなものは排除される土地柄なので、「ここでやれたらどこでもやれる!」と思うし、挑戦の場にふさわしいんじゃないですかね。

これから起業する人へアドバイスを。

起業する時は、誰でもそうですが、ああしたい、こうしたいって夢や希望がいっぱい膨らんでいくことと思います。でも、どんな仕事であれ、お客様に最も見られるのは、やっぱり“手仕事”の部分ではないでしょうか。私のようなフローリストなら、お花に対しての知識、つくる上での技術、その人ならではの感性といった面になるのでしょうが、地にしっかり足を付けることが何より大事ですね。例えば、ものすごく立派なお店をつくっても、そこで扱う商品自体や接客、サービスなどがそれに追いついていかないと、そのアンバランスさが際立ってしまい、お客様にも違和感やマイナス面として伝わってしまうはず。確かに、夢を持つことはとてもいいことだけど、それよりもまずはコツコツとやっていく心構えが一番の基本なんじゃないかと思います。

私の場合は、本当に家族、親戚の協力がすごく大きいからやっていけるんです。場所の提供はもちろんですが、精神的にもかなり支えられています。みんながみんな、こんな恵まれた環境に身を置くわけじゃないとは思いますが、とりわけ女性が一人で何かをする時は、身近な人達の協力もすごく大事なこと。これから起業を目指すある女性から起業への不安や悩みなどを相談されたことがあって感じたことなんですが、どんな面も一人で抱えこまず、力をいただけるところには、少しでも頼っていいのではないでしょうか。お世話になった分、自分が頑張って仕事をして、結果として還元していけばいいのだから。

今後の展望は?

自分がこうなりたいとか、こうしたいというのは、あんまりないんです。私と同じ世代やもっと下の世代みたいに、これまで花にあまり触れてこなかった人たちにも、もっと花の良さを理解してもらったり、花のある暮らしを浸透させていったりできたらと考えています。それを伝えていくためには、私の場合、言葉でしゃべるのは上手じゃないけど、自分のつくっていくもの、提供していくもので見てもらえたら。

お店の移転や拡大も今のところ考えてはいませんが、もしかして今後あったとしても、スタッフを増やすことはしたくないんです。お店や商品すべてに目が行き届かなくなるのが怖いからです。もしも、私とまったく同じ志を持っていて、いっしょに頑張りたいと思える人が見つかれば、単なるスタッフではなく、私のパートナーとして働いてもらいたいですね。

私は思うんですが、どんな人にも人生の転換期には、気づいていないかもしれないけど、何かしらタイミングがあるものなんじゃないかと信じています。だから、そんな転機のサインをきちんと掴んで、その流れに乗っていけるよう、いつもアンテナを張っていたいですね。

編集:きど たまよ  撮影:黒川 博司