はたらこう課

Interview

リレーインタビュー

「お客様のために」から派生した
車の新ビジネスで地域に刺激を与える。

# 38

田村 裕也

YUYA TAMURA

自動車販売業

株式会社 アスモーター

Profile

1986年、白山市(旧鶴来町)生まれ。大学卒業後、トヨタ系ディーラーに入社し、営業マンとして9年間勤務。退職後、2017年10月、株式会社アスモーターを開業。新車・中古車の販売、点検・整備、板金塗装、自動車保険の取り扱いなどを行う。2020年4月にキャンピングカーのレンタル事業をスタートさせ、YouTubeチャンネル「アスチャンネル」を開設、動画配信を開始。2021年3月、2店舗目の野々市店をオープン。2021年7月、石川移動販売協会IMA(ほくりくキッチンカー協会)理事に就任。2022年、「唄の音」金崎一樹氏とともに合同会社を設立し、移動販売やキッチンカー関連のプロデュースなどの事業を手がけている。

起業までのいきさつは?

大学卒業後に就職した車のディーラーで営業マン一筋で丸9年働きました。配属先の店舗ではトップ、全社で3位になったほど、そこそこ営業成績が良かったんです。組織の中で働いているから仕方ないのですが、仕事内容には縛りがありますし、どうしても数字を上げることを目的にただひたすら車を売るだけの業務となってしまい、時には部下の成績のことも考えなくちゃならない状況にも悩ましく感じるように。自分の実力でもっと上を目指したい、もっと自由にできたらいいなという思いに駆られました。お客様が買いたい時期に買いたい車を買ってもらう、お客様に寄り添った営業をやりたいという気持ちも強かった。いざ独立開業すると決めて退職したものの、営業の仕事しかしてこなかったんですから、すべてが手探りでした。他の車屋さんから経営についていろいろと教えてもらいましたし、会計士が必要だと知れば会計士を探し、労務士が必要だと聞けば労務士を紹介してもらうといったふうに、多くの方に相談をして助けてもらいました。

 

最初は長土塀という大通りから入った場所だったので展示車を置かずに会社を立ち上げて営業をスタートさせました。基本的にはフリー客の対応はせずに、顧客は身内と友人ばかり。人が人を呼んでくれるといった具合に、起業時100人だった顧客が1年で600人となりました。セールスと事務のスタッフを引き連れての独立開業でしたから、当然ながら前の会社とは関係が悪くなってしまいましたが、今は円満です。前職の店舗の取引先の中ではうちの販売実績がトップになるぐらい還元していますから(笑)。

起業で大変だったことは?

自動車販売業は車が売れると販売店がひとまず代金の立て替えする必要があります。車1台当たりの立替金が大きいこともあり、開業準備金として銀行から融資を受けました。2017年10月の独立後、2018年1月から3月にかけて一番忙しい時期を迎え、とうとうお金が回らない状態に。借り入れ額を上回る売り上げがあり、建て替える現金が足りなくなってしまったからです。結局、その間はお客様にお願いして先にお金を払っていただいて取引していました。売り上げが伸びるのは本来嬉しいことなんですけど、その時は月30台近く、つまり1日1台一人で売っていたことになります。時には朝4時ぐらいにタクシーの運転手と電話で商談したこともあったほど。そんなに頑張っても、借り入れ額が相当大きいし、月々の固定費も大きかったのでしんどかったですね。

 

営業の秘訣は、と聞かれてもうまく答えられないんですが、本当にできる経営者は、人のために何かするというのがすごく長けているんだと思います。僕は正直何もしていないというか、入ってくる仕事をやっているうちに自然と顧客が増えていったという感じです。ディーラー時代でも車が売れるようになればなるほど営業をかけることをしなくなりましたし、「買ってください」という言葉もなくなりました。今もまったく自分から営業をかけることはしていません。ただ、前職で得たスキルや経験のおかげでレベルの高い提案ができるようになったと思っています。

 

2021年3月には新規顧客獲得のため、フリー客の対応ができる路面店をオープンさせることにしました。車屋らしくタイヤが付いている店舗が面白いんじゃないかと考えて、トレーラーハウスの店舗にしました。ここには展示車を置いて営業2人と事務員1人を、金沢店は本社兼整備工場にして、整備士2人と事務員2人を配置させました。

 

コロナ禍の中でのスタートゆえ、ネットでのキャンペーン告知はしましたが、オープニングイベントは行いませんでした。広告宣伝はYouTubeと看板広告だけ。YouTubeは、コロナ禍のせいでディーラーにお客が来ないし車が全く売れないと聞き、自分に何かできることがないかと考えた時に、映像で車のグレードなどを発信したら、お客様はショールームに来なくてもいいし、購買意欲が増して購入につながるかもと思ったのが始めるきっかけでした。やってみると思った以上に反応は悪くて、YouTubeで車は売れないんだとわかりました(笑)。でも、やり始めたからには続けていこうと割り切ってやっています。それでも、チャンネル登録者数は今4,500人ぐらいまで増えて収益化できているんです。

 

もう一つコロナ禍で始めたのがトラックベースの大型キャンピングカーのレンタルです。僕が幼い時にはキャンピングカーを借りるという選択肢がなかったので、今の子どもたちに自分たちができなかった経験をしてほしいという思いもあり、起業する時からやろうと決めていたことです。長土塀なら金沢駅から歩いてこられる距離ですし、東京オリンピックという絶好のタイミングに合わせて、石川県から東京へ楽しい旅をする提案をしようと考えていましたが、レンタル用の車が到着した直後にオリンピックが延期になってしまった。ただ幸い、コロナ禍に家族だけの空間で旅行に行ける、密にならない、といったメリットからキャンピングカーが注目されるようになって、最初の思惑とは違うんですが、結果として売り上げにつながりました(笑)。大型キャンピングカーの新車販売は行わず、レンタカーとして2年ほど使用した後に中古車として販売するスタイルを取っています。キャンピングカーの販売については、バンタイプのキャンピングカーのみを取り扱っています。

キッチンカーの事業にも参入しています。

キャンピングカーのレンタルを始めて、お客様から「こんなのが取り寄せられないか」と問い合わせをいただいたことがきっかけです。すぐに大阪のキッチントレーラーの会社へ見学に行って自社で製造・販売することを決めました。ただそのトレーラーは中国製だったこともあって故障の多さに、しばらくして販売を止めたぐらいで、そういった問題が多かった背景もありますし、一人では対応し切れないとか、売り先が見つからないといったケースもあり、キッチンカーでの販売営業をスムーズに運営していくための組織として、2021年7月に石川県移動販売協会の立ち上げメンバーにと誘われて参加協力しました。今は会員が125社ぐらい集まっていて、協会主催のイベントも行っていますし、県や市などの自治体や企業、学校などから依頼を受けて、大規模イベントや行事への出店の要請を取りまとめています。例えば10台、15台を用意してとか、スイーツ関係とかご飯関係、かき氷といった指定があれば、協会で手配しています。当初は非営利でやっていましたが、メンバーそれぞれ本職が忙しいのに、連日依頼がひっきりなしに来るような状況なので、社団法人にすることを考えていますし、2023年2月頃に「ほくりくキッチンカー協会」という名称に変わる予定です。

 

協会の活動とは別に、「唄の音」の金崎さんと同じ長土塀出身で歳も近いことからつながって、キッチンカー販売の相談を受けて、せっかくなら一緒にやろうと合同会社を設立しました。キッチンカー1号はスズキの軽トラックを僕が改造して、金崎さんのプロデュースしたスパイスカレーを販売します。もちろんキッチンカー協会にも加盟しました。数ヶ月先まで毎週の販売先がすでに決まっていて、大きなイベントへの出店も決定しています。イベントが少なくなる冬やコロナ禍終息後に向けては、キッチンカーは宣伝カーとして稼働させつつ、大学病院とか会議用、スーパーなどに向けたお弁当・仕出し販売や、カレールーの販売といった仕組みづくりを進めたいですし、他にもキッチンカー関連の相談を請け負うコンサルティング業務やオンラインショップなどもやっていくつもりです。僕は人脈と営業力を活かし、彼は料理のほかカメラも撮れるし、お互い補い合いながらやっていけるのがいいですね。

金沢で起業する魅力は?

今まで考えたことがなかったですね(笑)。ただ金沢は人口が少ないので、いいことも悪いこともすぐに伝わりますね。だから以前、自社製造のキッチントレーラーを販売していた時はあまりにも故障が多くて悪い評判が広まっていたはず。一方で都会と違って地元愛が強いという面もあります。僕の地元は鶴来町ですけど、ずっと仕事してきたのは金沢だし、お客様も金沢中心の方が多い。そうなってくると起業するのはやっぱり金沢ですね。都会への進出も検討しますが、やっぱりリスクヘッジを選んでしまいます。

これから起業する人へのアドバイスを。

先日も同級生から起業したいと相談を受けて言ったことでもあるんですが、僕が独立する時に「自分が独立した時に助けられたから、次は自分が助ける番や」と言って助けてくれた人がいて、だから次は僕の番、どんどん助けてあげたい。

 

ただ、起業はスロースタートで、ちゃんと考えてからやった方がいいと思います。スロースタートでというのは、僕の中ではいろんな意味がありますが、念入りに考えたらもっといい事業になると思うんです。僕は独立する時、なんの不安もなく自信にあふれていましたから、勢いだけでスタートしてしまったので最初が苦しかった。今だったらもっと考えます。事業計画をしっかり練って、ちゃんとブランディングすれば、もっといいペースでいい会社ができるのではと考えます。それと失敗することですね。失敗をどうリカバリーしていくかというのも、起業の一つの楽しみじゃないかと思います。

 

僕が起業してよかったなと思うことは、できることがたくさんあること。サラリーマンでは難しかっただろうと思います。もちろんリスクは伴いますが、自分がチャレンジしたいことにすぐにチャレンジできる環境がありますから。僕の場合はやっぱり「とにかくやってみよう!」から始まることが多いですね。

今後の展望は?

現在、石川県で初めてトゥクトゥクを輸入販売する事業をスタートさせる準備が進行中です。山代温泉観光協会がトゥクトゥクを所有されていて、仮装してほしいと要望されたことから、これは自分でできるんじゃないか、と思って。さっそくタイに法人を持っている友人に連絡すると、引っ張ってこられることになりました。ほんの小さなきっかけから生まれた新規事業です。トゥクトゥクはトライクという3輪バイクの扱いなので、普通免許があれば乗れるし、屋根があるからヘルメットは不要です。それをキッチンカーにすることもできるし、そうなったら合同会社の方でトゥクトゥクのキッチンカーで何かを販売することもできる。

 

これから全国のホテルや観光地、イベント会社や結婚式場などに向けてDMを送る予定で、イメージデザインもすでに仕上がっています。日本ではトゥクトゥクをタクシーとして使用することはできませんが、レンタルなら可能なので、企業がレンタルしたトゥクトゥクを活用して観光地を巡るツアーを組むこともできます。金沢は観光地としての知名度が全国的にも高いですが、さらに知名度を上げるにはトゥクトゥクがいいんじゃないかと思っています。できることなら、ひがし茶屋街に走らせたらとても面白いだろうし、僕の地元の鶴来にも走らせたい。イベント会社も持っていると使い道があるはず。軌道に乗れば全国各地に販売ディーラーを増やして、うちが輸入元となって発送するといった仕組みを進めていきたい。まさに車のメーカーとディーラーと同じ関係ですね。

 

独立して店舗を立ち上げ、キャンピングカーのレンタルをスタートさせ、2店舗目を出すまでは起業時から計画していたことですが、キッチントレーラーも移動販売業もトゥクトゥクも、「お客様のために」から派生していった新しいビジネス。初めはまさかこんなかたちで展開していくなんて思ってもみませんでしたね(笑)。その分人材が必要となってくるのが課題の一つでもあります。この先は店舗づくりやブランドづくりにも力を入れていきたいとも思っています。ただ自分のつくり上げたアスモーターという会社は一つの柱として続けていきますし、これからも変わらず車に携わる仕事で、石川県を盛り上げて貢献していきたいですね。

2022.10 編集:きどたまよ 撮影:黒川博司