はたらこう課

Interview

リレーインタビュー

若い世代に訴求したSNS展開で
鍼灸治療をエンタメ化していきたい。

# 41

吉本 竜矢

TATSUYA YOSHIMOTO

院長

リアン鍼灸治療院

Profile

1988年、河北郡津幡町生まれ。高校卒業後、大阪の専門学校で学び、柔道整復師、はり師・きゅう師、NSCA認定パーソナルトレーナーなどの資格を取得。石川県内の整形外科リハビリテーション科に就職し、主にスポーツリハビリを担当。ドクターに師事し、整形外科疾患を対象にトリガーポイント鍼療法を実践。2018年7月に独立し、森本で『リアン鍼灸治療院』を開業。’21年11月に三社町に移転。専門分野であるスポーツ医学や抗加齢医学と鍼灸を掛け合わせた施術を得意とする。

起業までのいきさつは?

高校3年生の時に進路を検討する際に、大学に進学せずに、専門的な資格で食べていこうと考えました。最初は美容師がいいかなと思ったんですが、考えてみたら美容師は結構多くいるので止めました。というのも、僕は昔から“群れる”のが好きじゃないんです。「流行っているから」とか、「これいいよ」と勧められるほど「いらねぇわ」となるタイプ…(笑)。逆に、変わったジャンルや珍しいところに行きたくなる。元々トレーニングや運動が好きだったので、「これだ!」となった職業が鍼灸師。身体をケアする業種には、整骨院と整体、リハビリ、マッサージといろんなジャンルがある中、一般の方にとってはその区別がつきにくいと思うんです。だけど鍼灸は異質というか、誰にもわかりやすいですからね。そして鍼灸師という職業を決めた時点でいつか独立することも念頭に置いていました。

 

専門学校の在学中にはパーソナルトレーナーの資格を取りましたし、「柔道整復師」と「はり師・きゅう師」の両方の国家資格を取得した後は、県内の整形外科に就職して、主にスポーツのリハビリを担当していました。そこでも資格を活かして鍼治療も行っていました。5年ぐらい勤務した後、独立を決め、競合店との差別化を図るために鍼灸だけに絞ることにしました。

 

開業準備として物件を探してみたら、たまたま森本駅前に規模的にちょうどいいハコが見つかったので、他とじっくり比較することなく、勢いで決めたような感じです。資金は親族から借りつつ、日本政策金融公庫で融資を受けました。申請のための書類作成は特に飲食店が結構大変みたいですけど、鍼灸院だからなのかわりとスムーズに進みました。創業に関する助成金・補助金は特に申請しませんでしたが、開業後には販路開拓のための経費の一部を補助する持続化補助金を利用しました。

 

サービスの軸は肩こり頭痛や座骨神経痛といった痛みに関しての鍼療法、特に「トリガーポイント鍼療法」を行っています。例えば、椎間板ヘルニアのように、神経を圧迫してそれが痛みの元だとされる理論があって、100年前に提唱されたままアップデートされておらず正確ではないんです。神経は圧迫に対して強くできているため、圧迫されても痛み・痺れとは関係ないことがわかっています。痛み・痺れの原因として、ここ30年ぐらいの間に新しく出てきたのが「トリガーポイント」です。筋膜という組織にセンサーが豊富に分布されていて、そのセンサーが過敏化された状態をトリガーポイントといい、鍼を刺すことで過敏化された部分を正常値に戻す作用があるわけです。トリガーポイントに着目した鍼療法はまだ世の中にあまり浸透していなくて、金沢で大々的にやっているのは当院だけです。というのも、教科書にもほんの少しふれる程度しか載っていないので、自分から情報を求めて探していかないと専門的には学べません。これ自体に資格はないのでセミナーに参加するなどしながら独学で習得して、病院勤務の時から取り入れ、リハビリと併せて施術を行ってきました。

 

実は、リハビリを行っていると誰もがぶち当たることですが、ヘルニアの患者さんは運動をするとヘルニアは引っ込んでないにもかかわらず痛みは治まっちゃう。膝がすごく曲がっていて軟骨がすり減っている方の場合、筋トレしたら膝も軟骨も改善されたわけじゃないのに痛みが治っちゃう。なぜだろうと考えた時に、そもそも骨や神経の問題じゃなくてトリガーポイントの異常にたどり着く。運動したら痛みのセンサーが変化していくメカニズムを利用して、運動の代わりに鍼を使用するとより早く効果が得られるということで、トリガーポイント鍼を導入しています。日々最新のデータや情報が蓄積されていくので定期的に学会に参加しています。

起業で大変だったことは?

開業直後の集客にはめちゃめちゃ苦労しましたね。オープンに合わせて自作のホームページを準備し、ネットの有料広告も利用しましたが、お店を覗きに来られる周辺にお住まいの方はいらっしゃったものの、ネットの反響はあまりなかったです。お客がほとんど来ないまま1ヶ月ほど過ぎて「これではまずい!」と思い、すぐに店のホームページを業者に外注しました。起業経験者に相談すると、ネットを強化した方がいいとのアドバイスもあって、情報量を詰め込んだクオリティの高いホームページをつくって真面目に集客に取り組んでからは、次第に顧客が増えていきました。お客様はほぼ県内の方ですが、どこかで情報を得たのか、先日は外国人観光客が来店されました。

 

今は広告に頼らずに、SNS発信のほか、検索エンジンで店舗のサイトを上位に表示させるSEO対策(*1)と、GoogleマップでのMEO対策(*2)を中心に取り組んでいます。中でもGoogleマップのビジネスプロフィールに情報を充実させて口コミを増やしていくのが、一番効率が良いですね。時々有料ウェブサービスの営業に来られる方から「他の業者が入っているんですか」と勘違いされることもあるんですが、全部自力でやっています。

*1 Search Engine Optimizationの略で「検索エンジン最適化」のこと *2 Map Engine Optimizationの略で「マップエンジン最適化」のこと

 

病院勤務の時は高齢の患者さんが結構多かったんですが、開業してみると予想に反して高齢のお客様は全く来ないことに驚きました。若い方も入りやすいおしゃれな雰囲気にしたからでしょうか。もちろん、高齢のお客様には来ていただきたいのですが、一方で若い人が入ってこないコンテンツは潰れるとも言われているので、それはそれでいいのかなと思って、今度は若い人向けに本格シフトしていこうと、SNSを積極的に活用しています。鍼灸治療にエンターテインメント性を掛け合わせて、最近は施術の動画をTikTokでの配信も始めてみました。何が当たるのかわからないので反応を探りながらやっています。

 

森本で3年余り営業した後にこの場所に移転しました。森本で開業して1年ぐらい経った頃、「やっぱり森本じゃない方がいいな」と思うようになって(笑)。思ったより商圏が広いことがわかったのと、森本だと近隣や東金沢の客層に偏ってしまうからです。営業を続けながらテナントをずっと探していて、今の場所が空いたタイミングで移転を決めました。このテナントは駅チカで駐車場付きという希望の条件に合いましたし、場所もわかりやすいのが良かった。駅前にあってもお客様は皆さん自家用車で来られますから駐車場の完備は大事なポイントです。

 

移転にともない融資を受けましたが、コロナ禍ということもあって、すんなりと進みましたし、個人事業主向けの給付金も支給されたので設備投資を行い、メンズ向けの脱毛メニューもスタートさせました。森本の店舗のお客様も継続して来ていただけていますし、ネットをご覧になられての新規客も増えて、客単価の方も明らかに上がりました。

金沢で起業する魅力は?

異業種の人とつながりやすいかもしれませんね。同じ歳の美容師さんとか、マッサージ屋さん、整体師さんなどと情報交換できたり、飲み会開いたりとか…。SNSでもお互いを認識しているような方を探してこんな人たちと集まりませんか、と自分からDM(ダイレクトメッセージ)を送ります。もちろん男ばっかりですけどね(笑)。いろんな方と情報交換して得られるヒントもたくさんありますし、自分にとっていい刺激にもなります。

 

聞くところによると、石川は美容にお金をかけない県というデータがあるそうです。だからなのか美容系のお店のリピーターが少ないんだとか。エステなどにお金をかけなくてもいいぐらい、日本で一番肌が美しい県でもありますから、美容サービスはなかなか顧客に訴求しづらいところがあります。そんな中でも、美容鍼灸はこれからの分野だと思っています。鍼灸を受けた経験がある人は人口の4.5%しかいないと言われていて、美容鍼灸から間口を広げていくことで、それが5%、6%になっていけば大きいんじゃないでしょうか。実際、美容鍼灸から鍼に入っていただくお客様は多いですから。

これから起業する人へのアドバイスを。

今はすごく働き方が多様化してきているので、場合によっては勤めながら起業することもできる。叶うことなら僕もそんな起業スタイルがよかったなと羨ましい限り(笑)。いずれにしても、もし迷っているんだったら起業した方がいいと思います。僕の時は独立起業について家族に相談したら、両親ともに公務員なので、このまま病院勤めの方が安定していて安心と考えていたんでしょうね、とにかく反対されましたが、なんだかんだ応援してくれました。僕自身も起業への不安が全くなかったわけじゃないですが、もしダメだったらダメでいいんじゃないか、何億円を動かすような仕事でもないし、と考えていました。

 

この業界でいえば、鍼灸師には職人気質な人が多く、技術だけを追い求めがちですが、技術はあって当たり前のこと。加えて、コミュニケーション能力や経営のノウハウをしっかり学んだ方がいいと思います。僕は経営に詳しい人に尋ねたり、業者の方からこぼれてくる意見や情報を参考にしたりして自分の店の足りないところなどを改善していきました。流行っているお店のサイトを参考にすると早いかもしれませんね。アンテナをいろんな方面に広げてみれば、どこでも情報やヒントが落ちているものですし、それを経営にうまく活かしていくことが大事なんじゃないでしょうか。

今後の展望は?

県外への進出は全く考えていません。正直なところ、金沢を盛り上げようとか、鍼灸を世の中に広めたいという興味があまりなくて…。鍼灸院というハコの仕事には限界があるし、天井が見えていて、今ある店舗で終わりかな、これ以上お店を持てない気がしています。だから他に事業を拡大するとしたら知識商売となってくる。少し興味があるのが講師業です。トリガーポイントに焦点を当てた療法を手がける人が少ないこともありますから。とはいえ石川県の人向けだと競合しちゃうので、県外でやらないと(笑)。最近はZoomなど、セミナーを開けるオンライン環境も整っているので、講師業は射程が広いのかなと注目しています。

2023.2 編集:きどたまよ 撮影:黒川博司