はたらこう課

Interview

リレーインタビュー

治療も癒しも叶えるサロン展開を軸に
飲食業参入でビジネスの幅を拡げる。

# 42

村田 京介

KYOSUKE MURATA

柔道整復師

すりーぴーす

Profile

1990年、金沢市生まれ。高校卒業後、JAグループ会社に3年勤務。柔整専門学校に入学し、柔道整復師の資格を取得。脳神経外科のリハビリテーション科で3年勤務したのち2016年に独立。北安江のリラクゼーションサロンの営業権を買い取り、経営をスタート。’18年11月、問屋町店オープン。’20年12月に株式会社積善余慶を設立し、浅野本町に3店舗目「リフレッシュ工房すりーぴーすPlus+」をオープン。整体、リフレクソロジー、アロマトリートメント、ストレッチなど総合的なサービスを提供。’21年には飲食業界に参入し、「1/3 HAMBURGER FACTORY」をオープンさせる。

起業までのいきさつは?

若い頃は社会に出ることについて何も考えていなかったんですね。高校卒業後はJAグループ会社に就職して工場のオペレーションの仕事をしていました。会社勤めの日々を過ごす中で、働く楽しさを気にするようになって、「人から直接感謝される職業」に就きたいとの思いを強くしました。独立できる国家資格の中から検討して、柔道整復師の資格取得を目指すことに。3年間勤めた会社を退職して、柔整専門学校に通いながらホテルのマッサージのアルバイトをしていました。資格取得後は、脳神経外科病院に就職しました。元々病院への就職を希望していたものの、専門学校が斡旋する就職先には病院がものすごく少なくて、80箇所の病院に直接電話して求人がないか確認して採用してもらえたのがその病院でした。そこでは柔道整復師としてリハビリテーションの仕事に携わっていたのですが、中には症状の重い患者さんも訪れるんです。そういう方に接するたびに自分がやってあげられることがあまりにも少ない現実に心苦しさを感じるばかりで、次第に自分の気持ちが追い付かなくなりました。

 

病院の仕事の傍ら、専門学校の同窓生が営むサロンでアルバイトをしていたのですが、リハビリとリラクゼーションの両方の仕事をやってみてわかったのは、症状がないと接骨院や鍼灸院へ行きにくく、一方リラクゼーションサロンでは腰痛や肩こりの症状に対応できないということ。それならば、リラクゼーションの枠を超えたサロンをつくろうと起業を考えました。

 

そんな時にちょうど、アルバイト先のサロンのオーナーから店を辞めるから僕にやらないかと打診してくださって、若かったからでしょうね、一切迷うことなく「やります!」と返事して、営業権を買い取ることに。それが最初に経営を始めた北安江本店です。誰にも相談することなく即決したものだから、家族や友人に事後報告すると「辞めようとしている店をわざわざ買うなんてあり得ない」「騙されているんじゃないの?」と猛反対されましたね。

 

すでに店舗も設備も揃っていて、顧客もいる状態でのスタートなので、準備は主に営業権の買い取りや備品の見直しなどの費用のための資金確保とスタッフとの雇用契約の結び直しでした。資金の借り入れは大変だと聞いていたため覚悟して日本政策金融公庫の窓口に出向いたんですが、既存店舗としての実績があったため、ほぼほぼ苦労することなく融資を受けられて拍子抜けするほど。そんなに簡単に借りられるんならもっと多めに借りておけばよかったと思って(笑)。でも当時は何もわからなくて、借金するのが怖かったですしね。今思えばスタートアップ関係の助成金や補助金で該当するものがあったかもしれませんが、考えも及ばなかったです。

 

身体の症状にしっかりアプローチできて、なおかつ気持ちがいい。治療やリラックス目的など、あらゆるニーズに対して総合的に提供できるサロンをつくるための起業だったから、これまでの店の方針を大幅に変えました。スタッフたちに向けて筋肉や骨格系などの基礎知識を学ぶ研修制度を設けましたし、お客様へのヒアリングの仕方などオペレーションも変えました。元々2,980円だった料金体系も少し高めに変えましたね。というのも、1日8~9時間も働いてもらうベーススタッフの給料を考えると、以前では生活もままならない状態だったからです。

起業で大変だったことは?

起業の準備はすんなり進んだものの、走り出してから半年間は赤字続きでした。売り上げに対しての利益計算ができていないうえに税金面にも疎くて、設備の新調等、経費を使いまくってしまい、これだけしか残らないのかって愕然としました。集客のため女性限定、男性限定のサービスデーやクーポン、ポータルサイト、チラシなどいろいろと試してみましたが、経営内容が変わったことで既存のお客様も一部離れ、ただでさえ利益が低かったところに、さらに厳しい状況に。

 

なにより大変だったのは、スタッフとの摩擦が生まれたこと。これまでスポットで何時間か来るだけの25歳のアルバイトだった人が急に代表となるんですから当然です。元同僚のスタッフは全員僕より年上なので、誰も言うことを聞いてくれるはずがない。実際、僕には経営の知識がまったくなかったですから、本を読むなどして付け焼刃でノウハウを学んでは経営者の真似事をして、やり方もころころ変えてばかりだから嫌だったでしょう。実績がないのに何を表現したところで言葉自体が軽いものになってしまう。スタッフとの距離はどんどん離れ、孤立していくのが辛かったです。

 

そんな状況下でも、お客様に満足できるサービスをひたすら考え提供することを継続していくうちに、新規のお客様も徐々に増え、1年以内には収益が安定していきました。2年後には、2店舗目の問屋町店をスタートさせました。この店も北安江のサロンを手伝っていた同級生が独立して開いたサロンだったんですが、ご縁があり引き継ぐことに。

 

とはいえ、1店舗だけやるのと2店舗を持つのでは要領がまったく違いました。安易に手を広げてしまったばかりに両店舗に目が届かずになかなか軌道に乗せることができませんでした。2年経ってようやく順調になってきた頃、今度はコロナ禍に。再び毎月赤字に陥り、通帳のお金がどんどん減って閉店の危機に追い込まれました。お店の営業はなんとか続けていたものの、たくさんいるスタッフ全員を抱えることができずお手上げ状態。「他に行ってもらっても構わない」と伝えざるを得なくて。中にはダブルワークで来てくれるスタッフもいましたが、自分の力の無さに絶望しました。コロナ関係の助成金の申請をするなどして、なんとか店を畳まずに生き残ることができて本当に良かったです。

 

3店舗目は2020年12月にオープンさせました。不動産屋で物件を探して3日で見つかった場所がこの浅野本町店です。立地にはこだわらず、運命を感じて即決して、初めて一から立ち上げたお店です。リラクゼーション+αのお店を目指してやってきたものの、なかなかリラクゼーションの枠から抜け出せずにいたので、新店舗では整体要素が強い施術として「リラクゼーション整体」を打ち出したメニューを提供し、単価の異なるお店づくりを考えました。身体の歪みや不調を取り除き、リラックスもできて、体質改善や筋トレもできる。それぞれを組み合わせて身体の調子を整えられる場所は他にはないと思います。いずれは広告を出さなくても口コミだけで回るようなお店になるよう頑張っています。

 

スタッフとの信頼関係を築くのもかなり時間はかかりましたが、少しずつ認めてくださるスタッフが増え、次第に話を聞いてもらえるようになっていきました。今は良好な関係を築けており、毎月全店舗のスタッフを集めて、技術・サービスの向上のための講習を行っています。スタッフの教育体制はきっちりシステム化するのではなく、根本のマインドをはみ出さない範囲で店舗ごとに自由に任せています。

飲食業界にも参入しました

元々飲食事業には興味がありましたし、ラーメン屋や焼肉屋のお話をいただいたこともありました。県外・海外に行きたいと思った時期があったんですが、子どもが生まれたこともあって、金沢を出るわけにいかない状況に。でもせっかくなら金沢を面白い場所にしたいと思ってこのリラクゼーションサロンをつくったわけですが、地元を元気にできるなら何でもやろうと始めたのがハンバーガーショップです。スタッフの弟さんがハンバーガー店をやりたいという話を聞いて、面白そう!と興味が湧いたことがきっかけで始まった事業。お店の企画や運営全般は店長に、お店の設計などはデザイナーさんにお任せして、利益の中である程度自由にやってもらっています。連日行列ができるほどの盛況ぶりになんだか悔しさもあり、嬉しさもありで(笑)。

金沢で起業する魅力は?

都会に比べて人口が少ないことで言えば、金沢で起業するメリットは少ないのかもしれません。ただ、金沢には地元のことが好きな方が多いように感じます。石川県出身、金沢出身というだけで人が寄ってきてくれるし、マッサージ始めました、ハンバーガー始めましたと言えば目に止めてくれる。金沢には、僕みたいな “ぽっと出” で何かを始める人が多いですが、コンセプトさえしっかりしていればうまくできるんじゃないですかね。ハンバーガー店のように、しっかりブランディングした上でスタートできていたら、リラクゼーションサロンもあれほど苦労せずに経営していけた気がします。今もそれが難しいんですけど(笑)。

これから起業する人へのアドバイスを。

起業はそんなに怖いものではないので、やり直せる範囲だったらやってみた方がいいと思います。あまり深く考えすぎてもダメな気がしますね。やってみないとわからないですから。じっくり煮詰めるのも大事ですが、マイナスイメージが湧きすぎるのか、結局やらない人が多いかも。極端な表現ですが、とりあえずやってしまったという人の方がうまくいっているように感じます。

 

僕自身ももちろん起業への不安はありました。何がわからないかもわからない世界でうまくいくイメージなんてなかなか持ちにくい。でも、一度経営してみよう、と。失敗しても取り返せる金額でのスタートだったので、高級車を買ってダメにしたぐらいの感覚だと考えていました。

 

そして起業してみてわかったのは、経営者は想像よりしんどいこと。それまで経営者はすごくラクしているようなイメージを勝手に持っていたんですが、完全に舐めてました。実際にやってみると特に精神面がきついですね。当たり前ですが、スタッフ全員が同じ方向を向いてくれる訳ではなく、同じような思考の方が少ない時期は、常に孤独感があります。今まで経営者の集まりには一切行かなかったですが、同じ立場の方と知恵を共有できる良さもありますし、飲食業を始めてからは特に人とのつながりを増やしておいた方がいいと思い、最近は進んで参加するようにしています。

今後の展望は?

「すりーぴーす」の目指す姿は「8番らーめん」みたいな存在(笑)。誰にも馴染み深くて、人それぞれに思い出があるようなサロンにしていきたいですね。身体の不調や悩みがあるんなら、「とりあえず『すりーぴーす』へ行ってみたら」と言っていただけるのが理想形です。

 

現在3店舗あるサロンのさらなる店舗展開も考えますが、飲食業ももっと広げたいし、新たなジャンルにも挑戦していきたい。他にも構想はいっぱいあります。潤沢な資金があればいいんですが、今は資金の使う順序を見定めているところです。もちろん金沢だけでなく、県外や海外への進出も考えていきたい。活動拠点が全国各地にあったら、仕事を通じていろんな場所をぐるっと回れてもっと面白そうじゃないですか。