はたらこう課

Interview

リレーインタビュー

巧みな観察眼と描写力で撮る写真で
人物の真の魅力を引き出し、輝かせる。

# 12

谷前 治美

HARUMI TANIMAE

カメラマン

coen(コーエン)

Profile

1983年、金沢市生まれ。写真館での撮影、ラボでの現像作業などで経験を積んだのち、ブライダル会社に入社。結婚式の写真撮影をメインに担当して腕を磨く。2012年に独立起業。自宅を拠点に活動をスタートさせる。’16年2月、昭和初期の建物をリノベーションした『But Not For Me』2階にスタジオをオープン。結婚式の写真や前撮り、家族写真、CM写真など、独自の視点やセンスを活かしながら、幅広い撮影を手がけている。

カメラマンになった理由は?

昔からカメラマンが夢だったというわけではないんです。ある日、朝起きてふと「写真を撮りたい!」と思ったことが、写真を撮り始めたきっかけでしょうか。亡くなった祖父もカメラマンだったことをずいぶん後になって知り、不思議な血の繋がりみたいなものを感じました。でも、機材はすでに処分されてしまっていたので、受け継げなくてちょっと残念でしたけどね。

私には、特に学校などでカメラや撮影の専門知識を学んだ経験はありません。最初は家族写真を中心に撮る写真館のアシスタントとして働き、次第にシャッターを切らせてもらえるように。そこで3年間勤め、ラボで写真現像の仕事も2年ほどしていました。その後、ウェディング会社に入って、結婚式や前撮りなどを担当するカメラマンとして勤めました。

写真館の家族写真と結婚式の写真って、対極のように思われるかもしれませんが、私にとっては全く同じ。結婚式の写真は、家族写真へとつながっていくものだからです。二人の結婚によって、両家が家族になり、子どもが増えていって、家族が何倍にも増えていく。そんなふうに、二人がだんだん家族になっていく様子はとても興味深いんですね。その姿をずっと撮り続けていきたいものですね。

結婚式をはじめ、家族写真、広告の写真など、様々な仕事をさせていただいていますが、圧倒的に人物写真が多いですね。一番心を配るのは、被写体となる方の素の部分を引き出すところ。私は、“新郎新婦の友人が撮る写真”にとても嫉妬するんです。本当に心を許せる相手である友人に見せる表情というのは、他人に見せるものとはまったく違うからです。ならば、私もお客様と友達になればいいんだ、と。そのためにはまず自分が心を開くこと。そして小さなサインを見逃さないようにしています。どうでもいい世間話がお二人を表すキーポイントだったりしますから。

撮影に関しては、お客様に喜んでいただくことはもちろん、周りのスタッフの方、私自身も含めて、みんなが楽しめるよう心がけています。いろんな制約もありますが、みんなの心を一つにすることが、いい写真につながっていくと思うからです。仕上がるたびに、自分ひとりでは撮れなかったなぁと思い返します。あの時ウエイトレスさんが私を待ってくれていたから、足もとの悪い中アシスタントが当ててくれていた光があったから…。出来上がってくるものは、みんなで撮れた写真なのだと思っているし、携わる皆さんのポジティブな思いと空気感がいい写真に写り込んでいる気がします。

起業のきっかけは?

会社勤めの頃は、カメラマンの仕事は撮影が全て、アルバム制作までに関わることができなかったんです。せっかくいい写真が撮れても、最終的には自分がイメージした形にならないことが多くて…。アルバムはテンプレート式のものが多くて、写真の大きさやレイアウトにも制限があり、自分が思うイメージがあっても、管轄が分かれていることもあって、モヤモヤとしていましたね。やっぱり自分がいいと思えるものを、なんとしてでもお客様にお勧めしたい。だから、打ち合わせからアルバムづくりまでの一連のことを全部自分ひとりで手がけたいと思うように。お仕事なんですけど半分趣味みたいな、割り切れない思いがちょっとずつ膨らんでいきました。それが独立のきっかけのような気がします。

私の周りには素敵な人だらけで、デザイナーをはじめ、アルバムなどカタチにしていく際に協力してくれる人探しには苦労をせずにすみました。このビルに入るまではスタジオは設けず、自宅を拠点にして、ロケーション撮影を中心に仕事を続けていました。宣伝は特にしなかったんですが、前の会社からのブライダル撮影の依頼もありましたし、ホームページを見てのご依頼や、口コミの紹介、以前撮影した方のアルバムをご覧になってご連絡くださるお客様もいました。

今年、このビル『But Not For Me』の2階にスタジオを初めて構えることになり、助成金の申請も行いましたが、さすがに起業から4年も経っているため、残念ながら認可が下りませんでした。それで、貯めていた自己資金でなんとかまかなうことに。ビルにはうちの写真の他に、花、和菓子、雑貨、ブランディングデザインの5店舗が入居しています。「みんなで何かいっしょにできたら」と、この昭和3年から建つこの物件を皆で探し出し、リノベーションを行いました。国の有形文化財に指定されているので、外観はそのままにしておかなければならないんですが、内部は自由に改装することができました。昔の金庫や石造りの階段など、当時の古き良き面影がそのまま残っています。ジャンルの全く異なる店舗がコラボするからこその、他にはない面白いことをどんどんやっていきたいですね。

独立起業への不安や苦労はなかったですか?

なによりも周囲の素晴らしい人たちとの繋がりに恵まれたのが一番大きかった。みんなが同じ立場でゼロから始めることがすごく心強かったし、みんなには「本当にありがたい」の一言です。生まれつきの楽天的な性格もあり、失敗するかもっていうどころか、ワクワクが大きくて不安は打ち消されていたような気がします。

このビルの入居する友人たちもそうですが、いつの間にか出会い、今の仕事につながった方たちもいて、ドレスクチュリエの木谷さやかさんをはじめ、プランナー、ヘアメイク、フローリスト、フードなどフリーでやっている方たちが集まって、本当にしたい結婚式を提案する「スローウェディング」というイベントも開催しています。「本当にしたい結婚式」と言っても、実際には「こういうことをしたら」という具体的なアイデアがないと、なかなか実現できないものです。私たちがそういう引き出しの一つになって、二人がやりたいことを叶えていければと思ってやっています。

苦労することといえば、スケジュール管理や経理・事務系です。見て見ないふりをたまにします・・・(笑)。それと、いい写真を撮り続けるために何より気を付けているのは、健康です。体がつらいとやる気も起こらないし、写真にも表れてきてしまいます。私は針治療で、自分の体のメンテナンスをしています。とっても効きますよ。あとは、とにかくよく寝て、おいしいものを食べて、みんなと話をする。そういう当たり前のことが元気の源になっています。

金沢の街や人についてどう思いますか?

私は、生まれてからずっと金沢から離れたことがありません。一時、海外留学に行ってみたいとも考えていましたが、ベースができてしまった今となっては無理かな。でも、金沢が好きなので、もし他の土地に出たとしても、必ず戻ってくる場所なのは確かです。いい意味で金沢の人ってクセが強いと思います。天気も雨や雪、雷も多いのもあって、内向的な人が多いのかもしれませんね。その分、内に入るところで活動することが関係して、作家さんが多い理由のひとつなんじゃないかと思いますね。

今後の展望は?

オリジナルなものをもっと打ち出していきたいです。今ある制限や枠を取っ払えるように、その準備もしないとですね。最初から大それたことはもちろんできませんし、時間はかかるかもしれませんが、小さな幸せをつなげて、それが結果大きなものに育つようにつなげていきたいです。

そして、何より人が好きなんでしょうね。ダイレクトに人に喜んで欲しいから、人物を撮っているのだと思います。今ある健康と応援・協力して下さるみなさんに感謝して、少しずつ恩返ししていけたらと思っています。

編集:きど たまよ  撮影:黒川 博司