はたらこう課

Interview

リレーインタビュー

志を同じくするパートナーと起業。
思い描く飲食業のかたちを実現する。

# 18

Scala

Scala

イタリア料理店

スカラ

Profile

谷口直子(写真右)/1979年生まれ。羽咋市出身。京都の女子短期大学食物専攻を卒業後、金沢市のイタリア料理店に入社。調理担当として13年間勤務したのち退職。その経験を活かし、元同僚である上梨真紀とともに2015年、木倉町にイタリアンバル『Scala』をオープンし、調理を手がける。

上梨真紀(写真左)/1977年生まれ。金沢市出身。市内の短大を卒業後、3年間の事務の仕事を経て、カナダへ短期留学。帰国後、ホール係のアルバイトとしてイタリア料理店で3年間勤める。雑貨店へ入社し、11年間勤務ののち退職。元同僚の谷口直子と『Scala』をオープン。ホール係として接客を担当する。

起業までのいきさつは?

私たち二人が出合ったのは17年ぐらい前。同じレストラングループで、私はホールスタッフとしてアルバイトで勤めていたんですが、一度リセットしたいと思って雑貨屋さんに転職して別の道を歩みました。人に携われる接客の仕事がしたいと就いた仕事がインテリアショップでした。退職後も谷口さんと食事に行ったり、飲みに行ったりと交流を続けていて、「いつか二人で飲食店ができたらいいね」という話をよくしていました。というのもあって、きっとひとりだったら起業はしなかったですね。(上梨)

私はレストランには社員として入社し、調理を担当していました。社歴を重ねるうちに管理職に就き、上梨さんも雑貨店の店長を任されるようになり、会社を辞めるのがそう簡単にはいかない立場になっていました。でも、自分がやりたいもの、例えば提供したいものやつくりたい空間といったことが、会社の方向性と違ってきていたし、この先ずっと勤めているのは無理かなと思うように。年齢が30代に入り、「若いうちにやるんなら今しかない!」と思って、お互い会社を退職し、独立に向けて動き出したんです。(谷口)

起業するずっと前からこんな店にしたいね、という話は、二人でよくしていました。当初はランチ営業するような爽やかなイメージの店を考えていたけど、私たちがお酒好きなのもあって、歳を重ねるうちに「仕事終わりにお酒を飲みながらおいしいものを食べられる店にしたい」と思うようになりました。つまり、自分たちが行きたいと思える店です。物件探しはいろんなところを見た中で、以前バーを営んでいたこの場所が気になって、結局3回も見に来ましたね。店の出来上がりイメージがすぐに湧いて、木倉町でやりたいと思ったんです。ただ2階だからどうなのかなと思ったけど、隠れ家っぽい特別な空間が気に入りました。ちなみに店名の「Scala」は「階段」という意味なんです。(上梨)

堅苦しくなく、ぶらっと一人でも立ち寄れる食堂のイメージを目指したいと思いましたね。だからお酒も料理も値段設定も高くなり過ぎないようにしています。起業にあたり、銀行へ融資の相談に行った際、金沢市の助成制度「起業チャレンジ若者支援事業」を紹介されました。金沢市内の商店街で起業する若者が対象とのことで、資料づくりがとにかく大変でしたし、市役所でのプレゼン審査も受けました。それでも、50万円の支給のほか、家賃も1年目が補助率3分の2、2年目は2分の1の補助が受けられるのはとても大きかったし、とても助かりました。でも、宣伝広告、ホームページ作成といったものは、あえてやらなかったんです。口コミだけでやっていくのも私たちの個性でいいんじゃないかな、と思って。(谷口)

独立起業の不安や苦労は?

谷口さんは飲食関係の仕事に長く携わっていた経験があるため、八百屋や魚屋、酒屋などのつながりも活かせ、開店準備に対して特に苦労は感じなかったですね。集客は口コミだけに頼っていた分、オープン時はさすがに知り合いだけで席が埋まってしまうのかなと予想していたけど、紹介で来ていただいた新規のお客様が意外に多かったですね。(上梨)

私たち二人ならなんとかいけるんじゃないかなって、根拠もなかったけど強気に起業しましたね。「女性二人でお店やるとケンカにならないか」ってよく聞かれるんですが、私は調理、彼女はホールと、きっちり分担しているし、長年の付き合いなので阿吽の呼吸というか、互いにフォローし合って、うまくいっています。店の設計やインテリアのことも上梨さんのセンスが抜群で、「こういうのはどう?」って提案してくれ、私が「いいね、それでいこう」っていう具合です。(谷口)

1年目はオープンしたてでお客様が多いのは当然ですが、2年目も来店数は大幅に上がるまではなくても、下がらなかったのでよかった。今年9月で丸3年を迎えますが、自分たちのやりたいスタイルがぶれずにここまで順調に来られたように思いますね。もちろん今も暇な日もありますが、あまり考え過ぎないようにしています。あとは自分たちが出したいものを自分たちのスタイルでやり続けることだけを考えています。細く長くやっていきたいので、あまりにも高い売り上げは望まずに、来ていただけるお客様を大切に、1日1日を過ごしていければ。(谷口)

金沢で商売することをどう感じますか?

金沢での商売は独特。街がコンパクトなうえ、飲食店同士が仲良くて、お互いの店を行き来することもある。交流がとても盛んです。それはお互いにとっていい刺激になり、高め合えるのが嬉しいですね。それに金沢は、田舎すぎず、都会すぎず、ちょうどよく、商売がやりやすい場所だと思います。田舎は人が少なすぎるし、東京だと家賃も物価も高いし、人は多いけど常に新規のお客様の対応ができて、常連もついていれば続けられるでしょうが、できなかった時のダメージが大きいんじゃないかな。勝手なイメージですけどね(笑)。(谷口)

金沢は私の生まれ育った街なので、人の近さがわかるということもあって、やっぱりここでやりたいし、県外でやることは考えていなかったですね。この木倉町商店街は小さくても、困った時に頼れる街だし、みんなで盛り上げていこうという気概に溢れています。今まで、これが当たり前だと思っていたけど、県外からのお客様から聞けば、ライバル関係である飲食店同士が交流するなんて他ではあり得ないそうですね。(谷口)

今後の展望は?

これから、市内のイベントに積極的に出店していきたいですね。以前、一度だけ、金沢21世紀美術館で開催されたイベントで料理を販売したことがあって、失敗した経験があるんです。出店には制限や条件もあるし、どんな商品が求められているのか、何が必要なのかっていうことをもっと勉強しないといけなくて、そういう反省点が見えてくることがとても大きかったですね。だから、ぜひ次に活かしていきたいですね。また、うちの店を知らない人、うちの店に来ていないお客様が商品を買ってくださったり、「何屋なの?」また、「どこにお店はありますか?」って聞かれたりのやりとりが何より楽しいんです。そうやって人と直接顔を合わせて、料理を見て、食べてもらうってことが一番の宣伝になるのかも。(上梨)

それから、まだまだ先の先、いつ実現できるかわからないですが、いつか『Scala』オリジナルの商品をつくれたら面白いんじゃないかなと思っています。お店もイベントも商品づくりも、自分たち自身が楽しみたい、という思いの方が大きいのかもしれませんね。(谷口)

編集:きど たまよ  撮影:黒川 博司