はたらこう課

Interview

リレーインタビュー

ヴィーガンをテーマにユニットで起業し、
小さなスタートから店舗へと成長。

# 19

niginigi

niginigi

ヴィーガン料理店

ニギニギ

Profile

小浦千夏(写真右)/1980年生まれ、金沢市出身。内灘町のハーブ農園にて、農業、アロマ、ハーブ、スパイス料理の経験や知識を積む。8年勤務の後、玄米菜食レストランで調理を担当する。2012年、嵐敦子とケータリングユニット『niginigi』を結成。週末のイベントに出店し、地元産の安全な野菜や穀物を使ったヴィーガンデリなどを販売。’15年、金沢市西念に店舗を構え、’17年5月、石引商店街に移転。ケータリング、様々なワークショップなども開催。

嵐敦子(写真左)/1978年生まれ、白山市出身。沖縄の飲食店で4年間勤務する中で、マクロビオティック料理を習得する。2007年、野々市市にあるヴィーガンカフェで6年間腕を磨く。’12年、小浦千夏とケータリングユニット『niginigi』を組み、仕事の傍ら週末のイベントなどで活動し、のちに本業に。特に、揚げ物とおやつを得意とする。

起業までのいきさつは?

以前、私は野々市の自然食の店の2階にある、フェアトレード商品や洋服、雑貨を販売するショップ併設のカフェで玄米菜食のご飯やお菓子を手がけていました。農家からのキズ入りの野菜を大量にもらっても店舗販売だけではさばき切れず、料理として提供することになったんです。仕事で調理の経験は一切してこなかったんですが、沖縄に住んでいた時に働いていたマクロビオティック(以下、マクロビ)の店で習ったことをそのまま活かしました。
ちかちゃん(小浦さん)とは、趣味の音楽イベントで何度か顔を合わせつつも話したことはなかったんですが、ちかちゃんが、自然食の店に商品を卸していたことがきっかけで、お店で話す機会が生まれました。(嵐)

私は、河北潟にあるハーブ農園で働いていて、農業やドライフラワーやリースの加工、料理教室などのワークショップを担当していました。その後、玄米菜食のレストランに移り、その同僚である女性と家をシェアして住んでいたんです。そのレストランが閉店することが決まって、「せっかくなら何か一緒に楽しんで出来たらいいね」と話していたんです。お互いに別の仕事がすでに決まっていたし、その時は本格的な起業というわけでなく、趣味のような遊び感覚。それで、私はあっちゃん(嵐さん)がキャラクター的にも技術的にもその仲間としてぴったりだとすぐに頭に浮かんで、ヘッドハンティングに行ったんです(笑)。その頃には、自然食の店に行くのは、あっちゃんに会う目的みたいになっていたぐらいでしたからね。(小浦)

それまで、ちかちゃんとはお店で会話をすることがあっても、ちゃんと2人でゆっくり話したことがなかったのということもあって、突然のスカウトに私は正直驚きましたね。でも、どんなことをするのか話を聞いていくうちに思わずワクワクしてきて、もう楽しそうでしかなかったので、迷わずやろうと決めました。(嵐)

2012年から週末だけイベント出店の活動を始めました。お互いのこれまでの経験を活かして、ヴィーガン料理を軸にしたケータリングです。最初は店舗を持たずに、その時々で場所を借りたり、友人の店舗に商品を置かせてもらったりしました。3人でスタートした計画も、1人が残念ながら病気のために参加できなくなったんですが、この2人で続けることにしました。(小浦)

働きながらイベントに出ていたので、生活には支障はなかったとはいえ、だんだんメインでやっていきたい気持ちになっていきましたね。色んなところで1日カフェやイベント、ケータリングなどを展開していくことはとても新鮮だったし、より自由に表現できる場となっていたんです。私たちはとにかくフットワークを軽くして、呼ばれたらすぐやる、といった感じでやっていました。(嵐)

2015年に駅西に店舗を構えることにしました。知人の助けを借りながら、200万円の国の創業補助金を申請しましたが、残念ながら受けることができませんでした。申請のために、無知なまま始めた事業計画書を完成させるのはとても大変な作業だった。それでも、この先3年の具体的な計画をまとめることが、自分たちのお店の将来像をしっかり見据える良い機会となったので、大きな収穫だったと思っています。オープンに際しては、広告もしなかったし、ホームページもまだつくっていなかったけど、イベントでつながったお客様や友達がたくさん来てくれて、集客には苦労しませんでした。まずはイベント出店で経験を積んで、人脈を広められたのは、後々考えたらいい流れだったのだと思いますね。(小浦)

店舗を移転した理由は?

西念の店舗の場所に、大家さんの親戚が家を建てることになり、次の店舗を探し始めました。友人である『石引パブリック』の砂原さんに相談したら、「石引に来たら?」と誘われ、近くの不動産屋で探してもらうことに。「niginigiさんに、ぜひ石引に来てもらえたら」と親身になってくれました。物件が決まった後、あっちゃんが家賃の件で相談しようと『石引パブリック』に行った時に、たまたま居合わせたのが当時自家焙煎珈琲店で働いていた林君。彼も独立を考えていたようで、砂原さんから「それなら3人で一緒にやればいいんじゃない?」とアドバイスされて「そうしよう」となったんです。
それで、コーヒー店の『Chomsky(チョムスキー)』と店舗を共有しています。以前おばんざい屋だった物件で、キッチンのフードや電気系の工事はもちろん外注しましたが、あとは自分たちで元あった板張りや壁紙をはずして、ペンキを塗りました。林君はカウンターや本棚まで自作していました。移転オープンの告知も特に広告宣伝はせずに、ホームページとSNSで告知しただけです。(小浦)

店舗を持たない頃は、ケータリングの際につくる場所を確保するのもひと苦労だったし、調味料も食材も何もかも持っていって調理していましたから。その時は当たり前のことだったけど、思えばすごい労力ですよね(笑)。その分、今、お客が来てくれることのありがたさを実感します。
ここに移転してからは、今までのお客様や友人以外に、ご近所のおじいちゃんおばあちゃんがお茶を飲みに来られるし、金沢美大や金沢大学の学生がグループで来てくれる。コーヒー目当ての男性1人客もいらっしゃいます商店街という場所柄もあって、客層がずいぶん広がりました。

提供しているものは変わらず、ヴィーガンデリスタイルのお弁当がメイン。酵素ドリンクや発
酵系の料理、米炊きはちかちゃん、おやつ系と揚げ物は私と、つくるもので役割分担してお
り、お店の他のことについては一緒に決めています。お互い似たところがあるけど、同じタイプではないんです。林君も違うタイプで、いつも「こうしたらいいんじゃない?」ってアドバイスをくれる。そんな3人のバランスがよくて、とても面白いんです。(嵐)

金沢で商売することをどう感じますか?

金沢は、自分が育ってきたこともあって、人とのつながりが多い場所です。特に仕事で育んで
きた、飲食店や生産者とのつながりにも恵まれているので、何のつながりのないところで1からスタートするのと違って、商売はとてもやりやすいですね。。金沢はみんなクルマが移動手段だから、この場所じゃないとうまくいかないということはあまり関係ないように思います。だから、やりたいという強い気持ちや可能性だけでやっても、なんとかなる土地柄なんじゃないでしょうか。

特に、石引商店街には若い人のお店も多く、お友達感覚で接することができるし、イベントが盛んに行われていて、組合の夏祭りや地蔵祭りといった地元の行事も結構あっていいですね。だから閉鎖的な雰囲気は一切ないし、商店街や地元の人たちが私たちに興味を注いでくれて、積極的に話しかけてくれることが嬉しい。現在、商店街経由で申請する助成金を活用しています。開業の経費として50万円までの奨励金はすでに受け取り、家賃の1/4が2年間補助され、これは1年経過後にまとめてもらえるそうです。国の助成金よりはハードルは低いですが、ともあれ、商店街が活性化されるために金沢市から下りるお金なので、大家さんや不動産屋さん、商店街の協力が不可欠です。(小浦)

動物性の食材を使わない「ヴィーガン料理」という特殊なスタイルでやっていますが、金沢ではまだ馴染みが少ないかもしれません。どちらかといえば、ヴィーガンを目的に来られるのは外国人で、旅行客がふらっと食べに来られることも実は多いんです。一方で、アレルギー持ちのお子さんがいる方などからは、「ここの料理なら安心して食べられる」といった信頼感から選んでいただいているように思います。そもそもは特別ヴィーガンがやりたいというよりは、「体に優しくておいしい野菜をたっぷり食べてもらいたい」との思いが一番にあって、自分たちの今までの経験を活かして辿り着いたスタイルなんです。(嵐)

これから起業する人へのアドバイスを。

自分たちが読んだ起業の本では、資金は必要最低限300万円だとか、借入がどれだけだとか、その条件をもとに動かないと起業は無理なんて書かれていたけど、私たちは貯金ゼロからのスタートでした。前の店舗では、敷金礼金がなく家賃のみ、初期費用は保健所の申請料とフード工事だけ。しかもローン返済だし、ガス工事もオープン祝いということでサービスしていただいたんです。私たちがよほど頼りなく見えたんでしょうね(笑)。例えば、場所をシェアしたり、助成金を申請したり、色々手段があるはず。そんなふうに、まずやりたいことを優先させてから、その後苦労することで叶えられることもあると思います。
「やりたいことがあるけどお金がないから不可能」といった発想だけで、せっかくの可能性をなくさないでほしいですね。それに、周りの助けがあると結構色んなことができるはずですから。(小浦)

今後の展望は?

石引に引っ越してオープニングとして2階で「ベトナムナイト」と名付けた、食事と映像を組み合わせたイベントを行いました。また9月に音楽イベントを、うちも含めて4店舗で展開しました。食事と何かを掛け合わせた、主催イベントやコラボイベントをちょこちょこやっていけたらいいですね。(嵐)

メニュー立ち上げや様々なワークショップなど、今まで多くの方にいっぱい誘ってもらい、あらゆるものを経験させてもらいました。これから、私たちの想像を超えるような、今まで経験したことのないイベントのお誘いがあれば、ぜひ挑戦してみたいですね。他のショップや人、モノとのコラボレーションを通して、自分たちだけではできないことをかたちに出来ればいいなぁと思います!(小浦)

編集:きど たまよ  撮影:黒川 博司