はたらこう課

Interview

リレーインタビュー

自然の力を引き出すレンコンづくりで
農業の新たな可能性を拓きたい。

# 21

東 裕平

YUHEI AZUMA

農家

ナチュラルスタイル
あずまファーム

Profile

1982年生まれ、金沢市出身。大学卒業後、建設会社に就職。アルペンスキーの活動に専念するため退職。3年後、ケガにより選手生活を断念し、農業の道へ。レンコン農家のアルバイトを兼ねた研修を経て独立を果たす。2010年4月『natural style azuma farm(アズマファーム)』を設立。河北潟で農薬や化学肥料に頼らないレンコンの栽培を行い、スーパーや産地直売所、レストランなどで販売。レンコンチップスの製造販売も手がける。’17年2月より養蜂にも挑戦し、蜂蜜の販売もスタート。

起業のきっかけは?

大学を卒業後、建設会社に就職したものの、学生の頃から力を入れていたスキーの選手活動をどうしても諦めきれず1年ちょっとで退職し、アルバイトをしながらトレーニングや遠征試合の参加などの活動をしていました。でも、26歳の頃、大きなケガを負い、手術後は選手活動ができなくなってしまった。入院期間は2ヶ月、今後のことをじっくり考えるための充分な時間がありました。また仕事を始めなければと思いつつも、1年経験したサラリーマン生活は仕事内容の大変さもあり、人間関係もあまり得意じゃなかったし、勤務時間がきっちり決まった働き方は、自分には難しいと感じました。もちろん、スーツをビシッと着て働く姿への憧れもありましたけど、自分でやりたいことをコントロールできるような仕事を探すことにしました。

最初から農業の道を決めていたわけじゃありません。自分ひとりでできて、屋外で身体を動かすような仕事をと考えていたところ、おのずと農業にたどり着いたといった感じです。そのうち「レンコン」というキーワードが耳に入るようになったんです。というのも、河北潟ではお米農家だった人や若い人がレンコン栽培に参入していたので、勢いがある農業の一つだった。調べていくうちに、レンコンは8月から翌5月というシーズンが長いという特性があって、レンコンだけで1年間仕事が回るということを知りました。もちろん、肉体的にハードだと言われていたし、よくわかっていましたが、元々スポーツをやってきたので自分の体力には自信がありましたしね。

レンコン農家の道と決めて、『いしかわ農業人材機構』に相談に行ってみると、たまたま窓口の担当者の弟さんがレンコン農家をやっているとのことで、ワンシーズンだけアルバイトしながら勉強させてもらえることに。アルバイトは特に収穫が面白くて、レンコンは食べるとおいしいし(笑)、自分ならやっていけるという気持ちになりました。その翌年からもう独立して、自分ひとりでレンコン農家をスタートさせました。

起業にあたり苦労したことは?

農家の方々や人材機構からのバックアップもあって、いろいろ教えてもらいながらのスタートでしたが、なにぶん何もかもが初めてのことばかりでバタバタでしたね。

作業自体は自分がやることなので、大変とは思わなかったんですが、それより開業資金を借りたり、土地を購入したりの色んな手続きに苦労しました。レンコンというのは、普通の畑では栽培ができず、水を張った田んぼにしなくてはならないんです。既存のレンコン用の田んぼを借りたくても空きがなかったため、畑の土地を購入してスタートするしかなかった。とはいえ貯金はほとんどない状態。お金を借りた経験もなかったのもあったのか、融資や土地購入の手続きが、自分が思うようにスムーズに進んでいかなくて…。4月には植え付け準備が迫っているのに、果たして間に合うんだろうかと、自分じゃコントロールできない状況に歯痒い思いをしましたね。国や県の補助金制度は利用しなかったんですが、5年間無利子の融資制度を受けることができました。

普通の畑を田んぼに改良する必要があり、重機オペレーターである父にも協力してもらいました。最初は泥が硬くて、初めて収穫したレンコンは傷だらけのものばかり。泥が硬いと、きれいに太っていかず、ボコボコした形のものができてしまうんです。しかも3面ある田んぼの収穫が終わらないという始末。古いレンコンが残ったままでいると、次に生えてくるレンコンが小さくなったり、形が悪くなったりしてしまうわけで、春までに全て掘り終えなくてはならないんです。軌道に乗ってきたのは3年目ぐらいから。ようやく1年間の流れが見えてきて、需要がどれだけあるかといったことも含めて計算立てて仕事ができるようになりました。

今取り組んでいることは?

4年前から農薬や化学肥料を使わないレンコンづくりに切り替えました。安心安全な野菜を求めている人にこそ食べてもらいたいし、スーパーなどに置いてもらうことで、消費者の方たちに気づいてもらえるきっかけにもなるのでは。無農薬でもあれだけの量を収穫できるんだということ、農家がちゃんと生活していけるんだということを農家全体に伝えてもいきたいんですね。

販売できないサイズのレンコンを加工して「レンコンチップス」の販売もしています。子育てに忙しい中、奥さんに協力してもらっています。ただ、すべて手作業なのでどうしても1日30袋程度しかつくれませんが、余計な味付けはせずに、レンコンそのものの味を楽しめるようにしています

2017年8月に農協の組合員を辞めました。農協では部会全体の動きを重視しているため、個人の動きができないことが大きな理由です。「こんなふうに食べてもらえたら」とか、「もっと商品の売り上げを伸ばしたい」といった活動が間違いなく消費につながると考えても、組織の中にいては叶わない。こちらが収穫したものを引き受けてもらい、販売までの流れも一通り経験することはできましたが、それだけでは物足りなくて。こんなレンコンをつくりたいという、自分の信念をきちんと消費者に届けたいのです。

農協から離脱してから、まだ数ヶ月、手探り状態なので大きな動きはできていません。取引先はスーパーや個人販売店、レストラン、産地直売所、個人客です。産地直売所ではレシピやPOPを付けて販売し始めましたが、消費者の動向がとてもよくわかります。レンコンの出始めはぐっと動くし、他の野菜が出てくると動きが緩やかになり、正月近くにまた売れ行きがよくなる。農協の部会でも感じましたが、産直ならよりダイレクトに感じることができるでしょうね。

それに、これまでの規格サイズだと誰がどんなふうに使っているのかわからなかったんですが、今は把握しやすくなりました。レンコンは大きさや部分によって、味や食感がまったく違って、小さい部分はサクサクして、太い部分はホクホクとしている。だから直売だと、求める人に求めるサイズを提供することができるようになるんです。

販路拡大のため営業も行っています。自分の思いとお店の雰囲気が合うようなお店を訪問したり、他の方に紹介してもらったところにも行ったりしています。今後は、無農薬野菜に興味がない店にも置いてもらって、無農薬野菜を意識しないような方にも知ってもらえればいいですね。

これから起業する人へのアドバイスを。

その時の気持ちがあれば、大抵のことは出来るんじゃないかなと思います。ただし、継続していくことは難しいです。それでも、都度進んでいくにつれ、仕事の面白味は必ず増えていきます。とにかく続けることで、自分のやりたいことがだんだん出来るようになるはずです。

今後の展望は?

若いスタッフが1名加わったので、これまですべてひとりでこなしていた作業はずいぶん楽になりました。今後も、レンコンの作付面積は今のまま維持していくつもりですが、よりおいしく元気でエネルギーのあるレンコンをつくっていきたいです。

無農薬でやっていくためには、虫がつく原因を探り、強い野菜をつくることが大切。そのためには泥に栄養がないとダメで、土の中に残ったれんこんやその他有機物をたくさんの微生物や虫が食べて泥に変わることで、エネルギーのある土になる。土のバランスをとるために、イネ科のマコモダケも試しに植えてみるといったこともしています。マコモは水をきれいにする作用もあるし、神事に使われる植物でもある。ほかにも、堆肥としてもみ殻を泥に加えるなど、植物が分解するエネルギーを活かす土づくりをしています。といっても、いろいろと試みても答えはすぐには出ず、緩やかに効果が表れてくるのが本来の自然の流れなので、人間の方が自然の方に合わせて焦らずに待つ、それが農業というものなんでしょうね。

そんな自然相手の農業だから、冬は田んぼが凍ってしまい、氷を割りながらのハードな作業となることもあるし、葉っぱが折れると成長が止まってしまうため、とくに台風の時期の強風には、ビクビクさせられることも。でも、こればかりはどうしようもない。ただ、ラッキーなことに、たまたま自分の持つ田んぼのそばに杉が植わっているため、強風から守られ被害が少なく済んでいて、ありがたいです。せっかく育ったレンコンを鴨にガリガリ食べられる被害にも悩まされますが、田んぼ全面に上からネットを張って対策をしています。

それでも農業は、口から入るもの、体を元気にするものをつくり出す仕事。だからこそ世の中を変えていけるほどの大きな存在だと思うんです。しかし、これまでのただつくるばかりの農業のやり方から抜け出さないと先が見えなくなる。やり方次第では農業の可能性はもっともっと広がっていくはずだし、何か新しいことをやろうとする農家の仲間が少しでも増えていくよう、ますますがんばらなきゃいけないと思っています。

実は、今年から養蜂にもチャレンジしています。蜂蜜の収穫も得られ、販売しました。養蜂でも、巣を食べてしまう害虫の除去は薬品に頼らず、バーナーを使って炙る方法を実践しています。ほんとは自分で消費するために始めたんです。生き物相手だから難しい部分もあって、でもやってみると面白くて。どこかレンコン栽培と通じるものがあるのかも。蜂が蜜を集めて巣に出入りする様子を見ると愛おしくなるんです。花も蜂も捕ったり捕られたりするわけじゃなく、共生できているところがいいんですよね。養蜂はレンコンの忙しい時期と被らないので相性もいいし、これから量を増やして本格化していきたいと考えています。

編集:きど たまよ  撮影:黒川 博司