片町の路地裏、新天地に
お店を構えて気づいたら20年。
# 22
早見 たくや
TAKUYA HAYAMI
雑貨店店主
Kappa堂
Profile
1972年生まれ、金沢市出身。20歳より会社勤めののち、片町新天地に洋服店をオープン。
自家製の石鹸やお香、生活雑貨や洋服などを扱う。
新天地夏まつり、路地裏ライブの運営にも携わる。
起業のきっかけは?
アルバイトをしながら競技空手の選手をしていて、ある時期に不動産会社に就職しました。そこの社長が戦争体験者、元空軍のパイロットの方で、よく戦時中のお話を聞かせてくれました。カラオケも軍歌という感じの中で、それはいろいろ考えさせられました。若かったこともあり、そのうち自分で何かをはじめたいと思うようになって、お店をはじめることになりました。
今の場所で、メンズ向けの洋服や小物を扱うお店をオープンさせました。自己資金のみだったこともあり、店舗も自分たちで改装しました。
そのうち古着店を竪町にオープンしましたが、3年ほど経った頃、そのお店が新天地に移ることになり、その後お店をkappa堂としました。
カッパ堂の由来は、母の実家が七尾で、「がめ練薬」という薬を作っていて、河童が伝えたものとされている、ということから。現在は叔父が後を継いでいます。手作りの薬の更新がむずかしくなっているそうですが、今でも薪火で大きな釜に家伝書どおりの漢方を調合して、三日三晩かけて作っています。ちなみに、缶にデザインされている、なんとも言えないチャーミングな絵は、祖父の夢に邑知潟の主が出て来たのを図案化したのだそうです。店では、手作りのお香も販売しています。合成香料による鼻の奥に着く感じが苦手で、植物だけを使って一から自分で作ってみようと思い、はじめの3年ほどは趣味の延長で作っていました。マニュアルがあるわけではないので、自分であれこれ工夫しながら商品化しました。現在は僕が、竹材のアク抜き、生地練りをして、妻のお母さんと、その書道のお弟子さんの60代の女性の方が一本ずつ手巻きして手伝ってくれています。
新天地で店を営む魅力は?
新天地の話ではないのですが、実家近くにT商店ってところがあって、当時プロレスプロマイドが流行っていて、誰もがタイガーを出したいと思っていました。そこには、いつも子供らに交じってたむろしているおっちゃんもいて、ある時、「タイガーを売ってやる」と言うので皆買ったんです。家に帰ってよく見ると、そのおっちゃんが裸で覆面を被って構えた写真だったというオチなんですが、「だまされた!」と思っても思わず笑えてしまうような、清濁併せ呑むような感じが新天地にあるように思います。
新天地には、ユニークで只者じゃない方もたくさんいます。
歩けば周りに鳩の群れが集まるハト使いのおばちゃんとか、CDの封のビニールの上からサインしてくれる演歌歌手のマスター、人の前世が見えてしまう整体師の方とか…。いつも人知れず早朝ゴミを掃除していたタバコ屋のおじいさんは、一度クルマにぶつかりそうになった時は忍者のような素早さでよけていました。ちょっと面白おかしく言ってしまいましたが、チェーン店にはない、カラフルで人間味のあるお店や人が、新天地という場所にフラットに治まっている感じがなんだかユニークです。今まで思い出せないくらい漫画みたいなこともたくさんありました。
年に一度、新天地で露地裏ライブ(ブロックパーティー)を行っています。外国人、若者やおっちゃん、おばちゃんまでが踊りだすような、垣根なしでさまざまなストリートミュージックやパフォーマンスで楽しむ祭りをしたいと、数軒のお店でやろう、と始めました。
補助金をあてにせずに、身の回りの協力してくれる人達の心意気で成り立っています。
道路使用許可も申請して公道を使わせてもらっていますが、乱入してマイクを持つ人なんかもいるし、近所で商売されている方々との時間の約束もあるし、いつも無事に着陸できるのか? とハラハラします。
けっこうお騒がせしていますが、まわりの人達の協力と我慢のおかげで、10何年やることができています。余談ですが、ここで出会って結婚した人達が何組もいて、「縁結びの神様が居るのでは?」なんて、こっそり思っていたりします。
あと、この辺にたくましく生息している野良猫へのオマージュで、「新天地どらねこ市」というイベントも新天地の学生のまち市民交流館でやりました。
「どらねこ気分でお屋敷遊びをする」って企画で面白いテーマだったので、機会があればまたやりたいって思います。
これから起業する人にアドバイスを。
それどころか、自分ができてないこと、知らないことがたくさんあるので、教えてもらったりして、できるようにならなければ、と思います。
今後の展望は?
展望というほど見渡せていませんが、その時の状況と身の丈に合わせて変わって行くのではないでしょうか。
編集:きど たまよ 撮影:黒川 博司