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2023.03/29 Report

起業家紹介_vol.16 新道春香

求職者と企業の双方をもっとハッピーに

株式会社Spring&Co. 代表取締役/新道春香

人事の仕事と出会い、人が持つ可能性の大きさに気付く

金沢に生まれ、大学まで県外に出たことがなかったので、社会人になったらとにかく東京に出たいと思っていたんです。「このままじゃダメな気がする、いちど東京に出て揉まれなきゃいけない」みたいな焦りがあって、大学卒業後は東京・六本木にある富裕層向け賃貸を得意としている不動産会社に就職しました。そこではマンションの投資運用の担当をしていたのですが、私が想像していた「バリバリ働いて仕事を頑張った分だけ評価される」といった働き方とは違って、どちらかというと「いかにミスをせずに契約を結ぶか」みたいな正確さが重視される仕事だったんです。それが全然自分に合わなくって、全く評価もされないし、当時は本当につらかったですね笑。

東京で1年半ほど働いた後、結婚を機に夫の都合で札幌に移ることになり、ホテルの秘書兼人事の仕事に就きました。そこでの仕事が本当に楽しくって。人事の仕事って課題解決型というか、もちろん年間スケジュールはありますが、人が関わるので単調な仕事って一つもないんです。採用をはじめ社員の人事考課や異動などいろいろと経験しましたね。人事だけでなく秘書も兼務していたので、経営会議にも毎週参加させていただいて、「なるほど、こういう経営方針だから人事はこのように動くんだ」みたいな理解ができるのも嬉しかったです。

人事の仕事を通じて学んだことの一つが、「人にはすごく可能性がある!」ということでした。例えばホテルの場合、ある一人のスタッフが、バックオフィスからフロントに異動してマネージャーになっただけで、毎月何十時間とあったフロントの残業時間がゼロになったりとか、そういうことが起きるんです。一人の力でこれだけ環境は変わるということが本当に面白いなと思って。上司に恵まれたこともあり、人事の仕事は日々学びの連続で飽きることがなかったです。

「私が失うものは何もない」。地元に帰り、ゼロの状態から起業を決意

ホテルで2年半ほど働いた後、再び夫の仕事の都合で東京に戻り、その後さらに長野へ行くことに。この間、夫の転勤に合わせて転職をするたびに正社員から契約社員、派遣社員と雇用形態が変わり、自分のなかではキャリアダウンし続けている感覚がありました。そんななか、夫が海外留学をすることになって、ビザの関係で私は帯同できなかったので、もう地元に帰るしかなくなっちゃって。そのとき、ふと「私ってキャリアもないし、お金もないし、夫もいないし、何もないな」みたいな気持ちになったんです。何にも残ってなさすぎて、失うものがないみたいな。それで、いまここから何かにチャレンジしたらあとはもう上がるだけだろうと思い立ち、起業することにしました。

はじめは採用の仕事がしたくて、人事担当者のポジションを探していました。けれどどの企業も情報が少なくて、当時は石川県の有効求人倍率が全国トップレベルで悪く採用難と言われていたのですが、「そもそも企業が情報発信できていないから求職者に伝わっていないのでは?」という疑問がわき、採用セミナーなどに足を運んでみると、やはり求人の情報発信がネックになっているようだったので、その分野における課題解決がビジネスになると思ったんです。

ちょうどその頃、Wix(ウィックス)というノーコードでウェブ制作ができるサービスに出合って衝撃を受けたんです。というのも、これまで私はウェブサイトを発注する側で、見積もりを依頼したら数百万円することが当たり前だと思っていましたし、一度完成したウェブサイトを少し編集するだけでもそれなりの予算や時間が必要だったので、ウェブ制作ってかなり大変だと思っていたんです。それが自分で実際にWixを使ってウェブ制作をしてみて「え、私でも作れるじゃん!」という驚きがありました。Wixと採用を掛け合わせてビジネスになるんじゃないかと。

ターゲットを絞ることで、強みを明確に打ち出す

このアイディアをもとに、知人をはじめITビジネスプラザ武蔵を訪れたり金沢市の起業家支援サービスを利用したりして経営者の先輩方に相談しました。でも大半の人には「そんなに上手くいかないと思う」とか「ニーズがない」と言われてしまって笑。そんななか、金沢市に紹介してもらったある女性経営者の方に相談したときに、「もっと差別化してターゲットを絞ったほうがいいんじゃない」とアドバイスをいただいたんです。

このときに言われたことは今でもよく覚えているのですが、例えば石川県の中小企業って5万社以上くらいあるんですけど、そのうち、月3件、年間30件依頼を受けることができれば十分ビジネスとして成り立つ。ターゲットはどんなに絞ったとしても自分が想像するよりたくさんいるから、「大企業から中小企業までどういったジャンルのサイトもできます」という方向性で打ち出すよりも、「北陸の中小企業の採用に特化している会社です」と言ったほうが、選んでいただく理由になるし、強みが明確に伝わるんですよね。「求人に困ってる会社が5万社のうち半分あったとして、それでもターゲットとなる会社が2万社以上あるので、もっともっとターゲットを絞ったほうがいい」という言葉をいただき、ターゲットを絞ったのは良かったと思いますし、相談したほとんどの人にダメって言われましたけど笑、その方には出会ってよかったなと今でも感謝しています。

起業したばかりの頃は「できることはなんでもやってやろう!」という勢いがあって、「勝手にホームページを作るので、もし気に入っていただけたらお買取ください!」と飛び込み営業もしました。そのなかで良い反応もいただいて、次第に仕事依頼で声を掛けていただけるようになりました。その後は、土地柄もあると思うのですが、石川県は経営者同士のつながりが強かったり「知っている人にお願いしたい」という方も多かったりするので、ほとんど人づての紹介で案件をいただくことが増え、だんだん軌道にのっていきました。

責任を負う一方、自由であるのが経営者の魅力

もともと私は会社員に向いていなかったと思いますが笑、起業してとても良かったと思っています。組織で動いていると、社内調整といった人間関係に時間が取られることもありますし、自分一人のミスが他の人を巻き込むこともありますよね。私はそういったことが苦手だったのですが、起業してからは良くも悪くも全て私の責任なので、何か失敗したとしても自分で頑張って挽回したらいいし、私が良いと思ったアイディアはすぐに提案できる。責任もあるけれどすごく自由なところが魅力だと思います。

採用サイトを作るにあたり、企業にヒアリングをする上で大切にしているのは「思い」の部分を聞き出すことです。一般的に、採用では待遇や雇用条件を押し出している場合が多いのですが、わたしが目指すのは「理念共感採用」という、その会社のビジョンや思いに共感している人の採用です。その方が入社してから活躍する可能性が高いですし、他社と条件だけを比較して転職するリスクも少ない。採用サイトを通じてこういったマッチングの機会を創出していければ、求職者も企業も、もっと幸せなひとが増えると思うんです。だからこそ、経営者の思いを求職者へ届けられるように、経営者になった経緯や経営をする上で大切にしていること、現在抱えている課題なども根掘り葉掘り聞いて、会社独自の魅力が表れるようなサイト制作を心かげています。

石川県での起業は県内だけでなく北陸ナンバーワンを目指せる環境

石川で起業するメリットは、日本にある5大都市すべてから離れていることです。例えば千葉で起業をしたら東京の企業が競合になってくるし、岐阜であれば名古屋の企業と競わなくてはいけない。その点、北陸はどの大都市ともあまり近くありませんし、石川の県民性なのか、「北陸の企業にお願いしたい」と思う人も多いと思うんです。石川県で一番になれれば、自ずと北陸でのトップも射程圏内に入ってくる。そういう意味で、石川での起業は狙い目じゃないかな。オンリーワンだけでなくナンバーワンを目指せる環境だと思うので、起業を考えている人にはぜひチャレンジしてほしいと思います。
今後の目標は、とにかく中小企業経営者の方々にもっと私の存在を知ってもらうこと!中小企業がコーポレートサイトや採用サイトを作るにあたり、多額の費用をかけて立派なデザインのものを作るのもいいですが、ノーコードで、手頃な価格で制作したサイトでも、コンテンツを充実させればちゃんと情報発信できるということを伝えたいです。もう一つは、私自身、2020年に再婚して2021年に子どもが生まれたのですが、育児中の女性がフルリモートで活躍できる場を作っていきたいと考えています。場所にとらわれず、ライフスタイルが変わっても仕事を継続してキャリアを形成していくことは私も大切にしたいと思っていますし、そういう女性を増やしていければ嬉しいですね。
(編集:井上奈那)

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