はたらこう課

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2021.04/15 Report

起業家紹介 vol.1 あわい設計舎

「あわい(=間)」を大切にした、「手仕事」の住空間を。

あわい設計舎
建築士 金谷 渉

プロフィール
1987年石川県金沢市出身。金沢美術工芸大学 工業デザイン専攻卒業。 大学卒業後、照明器具メーカーにて営業、商品企画、デザイン設計等の業務に従事(東京、大阪、兵庫)。2013年金沢にUターンし「有限会社建築計画」にて建築設計の仕事に携わる。2019年「あわい設計舎」として独立。個人の住宅設計を主体に、商業店舗やインテリア等も手がける。二級建築士。
 

誰のためにつくっているのか、
実感が持てなかったメーカー時代

「ものづくりがしたい」という気持ちが、中学・高校の頃から漠然とあって。進学先は金沢美術工芸大学を選びました。高校までは普通科だったので、美大に進学する生徒は学年にでも1-2名と稀でしたね。「自分がつくったものが、街を歩いているとある」といった光景に憧れて「工業デザイン」を専攻。そこでいわゆる“工業製品”のデザインを勉強して、卒業後は関西に本社がある照明メーカーに入社しました。

プロダクトデザイン部門として採用されていたのです、入社前の研修で突然「営業部にまわってほしい」と宣告されまして。そして東京支社に配属になり、1年ほどがっつり営業をしてました。美大の同級生たちは皆いろんなメーカーのデザイン部に配属されて頑張っている中で、自分だけ取り残されているような焦りもあって、精神的にしんどかった時期でもありますね。
なんとか1年で商品企画部に転属してもらいます。ただ、「メーカーでものをつくる」ということは基本的には「大量生産」なので、「誰のためにつくっているのか」ということがよく分からなくて、ものづくりの実感が持てないまま働いていました。もちろんやりがいはあったのですが、ずっとそこが引っかかっていて。その後もう少し小規模な事業展開をしている同業他社に転職し、企画開発から最後の梱包・発送まで自分たちで一貫して行う経験をさせてもらいます。


「つくり手」も「つかい手」も
“顔”がよく見える建築という仕事

「地元に帰りたい」という気持ちは前々からあったのですが、24歳で妻と結婚したことと、前職を衝動的に辞めてしまったことをきっかけに金沢に帰ってきました。父親が個人で設計・施工の会社をやっていたので、そこに入れてもらって初めて「建築」という世界に触れることになります。

「この仕事で食べていけたら幸せだな」と思うようになったのは働いて1年ほどたった頃。個人住宅に限って言えば、本当に対個人の仕事です。ずっと引っかかっていた“誰のためにつくっているのか”、ということがすごく明確なんですね。
住宅でも、大きなメーカーになると工業化が進んでいて「パーツを組み立ててつくる」という傾向がありますが、個人の設計事務所や工務店がつくるような木造住宅の大半は、今も意外と「手づくり」なんですよね。
家具なども現場で大工さんや職人さんがつくるものが多いんです。左官屋さんや、電気屋さん、建具職人に設備屋さんと、いろんな職人たちの「手の仕事の集合体」として家がつくられていく。作り手も使い手の顔も、そして現場そのものがよく見える。ものづくりの実感というか“手応え”がすごくあって、これは面白い仕事だぞと。
いざ建築士を目指したとき、建築系の大学を出ていないと二級建築士の試験を受けるのに7年の実務が必要なのですが、たまたま美大で専攻していたコースが該当していて、2年の実務で受けられることがわかりました。また、さらにそこから3年の実務で独立に必要な「管理建築士」の資格もとれる。最短5年という明確な数字が見えたので、そこを独立目標にして準備を進め、2019年に「あわい設計舎」として独立しました。

「手間」も、楽しい

屋号にしている「あわい」とは昔の言葉でして、「間(ま・あいだ)」のことをそう呼んでいたらしいんです。モノとモノの関係性や、人と人の関係性、もっというと時間軸という意味でも、「間」って建築におけるキーワードのひとつであるし、その「間」が成立する空間を僕はつくっていきたいという想いから名付けました。また「あわい」という語感に含まれる、「白/黒」だけでないグラデーションのようなニュアンスも気に入っていて。二元論に落とし込まれない「間(あいだ)」の感覚も、大切にしたいと思っています。


現在は住宅をメインに設計しています。工業化が進む今日の住宅業界では「いかに既製品を組み合わせて短納期でつくるか」を重視する流れもありますが、僕がやっているのはその流れと逆行するようなことばかり。自宅兼事務所として自分で設計したこの家も、玄関ドアから階段、デスク、エアコンを隠すための建具に到るまで、すべて既製品ではなく自分で設計し、職人さんにつくってもらったものです。
「どんな素材を使うか、“収まり”はどうか」といった、細部の集合体が住宅の空気感を形成すると思っているので、できる限り全て自分で設計してつくり込みたい。
そもそも僕は「ものをつくるのが好き」というところから出発しているので、その手間すらも楽しいんです。それでお客さんに喜んでいただけて、さらには次の仕事に繋がっていくのであれば、こんな嬉しいことはないなと。
設計する上で考え続けていることは、長い時間を経てなお良いと感じられるデザインって何だろう、ということ。家となると、何十年、もしくは一生住む場所になるので、単純に若い時の好みや流行り廃りがあるものでなく、お施主さんが50歳、60歳になられても「良い」と思えるものを考えたい。それはガチガチに決め込まれたものというよりも、趣味や家族構成の変化に合わせてゆるやかに対応できるような「余白」がある空間なのかなと。そういう意味でも、「建築」って一生をかけて体得してく奥の深い仕事だなと、最近感じています。

(取材:2020.11月 編集:柳田和佳奈)

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